天使のマルが守る街~心の声

恵瑠

第1話

 天使のマルは、先輩天使のサンカクさん、シカクさん、ダイケイさんの前に畏まって座り、『引き継ぎ』を受けていました。3人とも難しい顔をしていて、その『引き継ぎ』がこれからマルの街で起きる大変さを物語り、マルは緊張していました。

「最初はさ、俺んとこの街に住んでたんだよ」

 ダイケイさんが言いました。

 今日の天使会議は、月に一度の恒例会議ではなく、急きょ行われた会議で、先輩天使の3人はマルが見守る街まで来てくれたのでした。

「その次はオイラんとこ」

 サンカクさんは手持ち無沙汰なのか、みんなが座っている雲をちぎりながら、ダイケイさんに続いて言いました。

「その次は、あたしのところよ」

 この中では一番のベテラン天使のシカクさんが、ため息交じりに言いました。

「そして昨日からマルの街に住むことになったわけだけど……」

 3人からの『引き継ぎ』は、小学校6年生になる男の子のトーヤのことでした。マルはまだ一日しかトーヤを見ていないので、何が大変なのかよく分かっていませんでしたが、確かにトーヤは、帽子を目深にかぶっていて、誰とも目を合わせようとしません。学校へ転校の挨拶に行ったときでさえ、その帽子を取ることはありませんでした。

「それで、トーヤの何がそんなに問題なんですか?」

 マルは率直に聞いてみました。

「俺んとこに住んでたときはまだ良かったんだ。まだ……ね」

 ダイケイさんが悲しそうな顔をします。サンカクさんも雲をちぎっていた手を止め、深く息を吐きました。

「オイラんとこに引っ越すことになったときくらいからかな?」

 3人は顔を見合わせ、頷きます。

「引っ越しが増えるたびに、トーヤはしゃべらなくなって、今はもう声さえ出さなくなっているの」

 シカクさんの悲しげな声に、マルは驚きました。3人の話しによると、トーヤは話せないわけではないらしいのです。でも、ダイケイさんの街、サンカクさんの街、シカクさんの街……と引っ越すことが増えるたびに、その声が聞こえなくなってしまったそうなのです。

「あたしたちもいろいろとやってはみたの。でも、ダメなのよ」

「声もだけど、笑わなくなっちゃったしね」

「友だちとも遊ばなくなった」

「心の中に爆弾を抱えてるのよ」

「爆弾!?」

「そう。かなり膨れてる。もうパンパンさ。破裂する前にどうにかできたらいいんだけど……」

 これは大変です。爆弾というものが、どの程度の爆弾なのか分かりませんでしたが、トーヤはもちろん。街にだって被害が出るに違いありません。少し怖い気もしましたが、マルは、3人の先輩天使からいろいろとアドバイスをもらい、気を引き締めてトーヤを見守る決意をしました。

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