ステップ

@araki

第1話

 目の前で赤々と燃える炎。その周りでクラスメイトが歓声を上げてはしゃぎ回っている。

 東華はその様を離れた場所で眺めていた。

 ――楽しそうで何より。

 まるで古いアルバムをめくっている感覚。運営委員だった自分は見守る義務がある。そんな役目を己に課していた。

 そんな時、

「躍ろうよ」

 声と共に腕が引っ張られた。佳奈の手。その握りしめる力は強く、ちょっとやそっとでは振りほどけそうにない。

「踊りは苦手なの」

「大丈夫。私が教えてあげる」

 東華は首を横に振った。

「行けない。だって、あれはあの子たちのイベントだもの」

「関係ないよ。私たちは私たちで楽しめばいい」

「そんなの……」

 視線を下へ。東華は思わず苦笑を漏らした。

「無理だよ」

「どうして?」

「立場が違うもの」

「同じように楽しめない?」

「そ」

「変わらないね」

 鼻で笑われた気がした。

「そんな風に構えるもんじゃないよ、楽しむって。もっとシンプルに行こうよ」

「……どんな風に?」

 そういえばこれまで頭でまず考えたことしか実行してこなかった気がする。感覚で動く、その感覚が東華には分からない。

「こんな感じ」

 これまでになく強い力。東華はあえなく引っ張り上げられた。

 身体が宙に舞う。重力の軛から解放された感覚。どこまでも自由だった。

「……すごいね」

 東華は人知れず奥歯を噛みしめた。

「いつもこんな風に躍ってたんだ」

「たまにね」

 炎と歓声はずっと遠くへ。風切り音にあらゆるものが剥ぎ取られ、後には感触と熱だけが残された。

 ――これが十分なんだ。

 東華はそっと身を委ねていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ステップ @araki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る