肉弾戦

 ボクたち玉座は、戦闘で得た経験値をいつでも振り直しができるのだ。こういう自体になったときの救済行為なんだって、イクミちゃんと戦ってやっとわかった。


「わかった」と、チサちゃんも覚悟を決める。


「気をつけて、ダイキ。黒龍に魂をとらわれるかも」

「その時は、チサちゃんお願い」


 もし、ボクが黒龍になってしまったら、チサちゃんにトドメをさしてもらう。


 そう約束して、ボクは経験値を全部【黒龍拳】に振った。


「うん……覚醒!」


 いつだってボクは、なにかに気づくのが遅すぎる。


 チサちゃんが、ボクの身体へと沈み込んでいく。


 ボクの身体に、魔王の力が行き渡った。


「おおおおお!」

「魔王、覚醒」


 チサちゃんが、全力を出す。


 同時にボクの姿が、チサちゃんが望む「魔王として融合したボクたち」を形成していく。


「ルチャの思いをぶつけるよ。イクミちゃん」



「何度も言っている。あんたはルチャじゃ……ルチャ!?」



 ボクは、黒いマスクのレスラーに変わった。


 イクミちゃんがルチャにこだわるなら、ボクがルチャに成り変わるしかない。ルチャの遺志を継いだボクなら、それが可能なはずだ。


「見た目だけルチャに変わっても、何も変わらない! くらえ!」


 黄金のドラゴンが、怪獣型からレスラータイプへと変わる。黄色いマスクのディエロゴだ。そんな変身もできるのか。相手の力量に合わせて、姿かたちを変えられるとは。


 ドロップキックを、全身で受け止める。


 倒されてしまうが、ボクはすぐに起き上がった。


「どうした? そんな攻撃では、ボクは倒せないぞ!」


 転がっているディエロゴを無理やり立たせて、ボクはラリアットを見舞う。


「うお!?」


 ディエロゴが、一回転した。


 強い。ボクに、こんな力が?


 起き上がったディエロゴが、右フックで殴りかかる。


 ボクも、カウンターでフックをやり返す。


 互いによけない。モロにパンチを食らった。


 ぶつかり合うしかない。お互いにそう思っているから。


 相手の技は、全部受け止める。


 泥臭い肉弾戦。なんて、ボクたちにふさわしいんだろう?


 チサちゃんのような魔法使い同士の戦いなら、もっとスタイリッシュなんだろう。


 けど、ボクには、こんな戦いしかできない。


 それは、ディエロゴも同じ。ボクと同じ姿の、ディエロゴも。


「はあ、はあ」

「ひい、ひい」


 どれくらい戦っただろう? ボクたちはアザだらけだ。共にヒザをつき、気を抜けば今にも倒れそうになる。


 しかし、やるしかない。まだ、ルチャの思いは、イクミちゃんに届いていないんだ。


「あたしは、ルチャを取り戻す」



「ルチャは……もういない!」


 息も絶え絶えながら、ボクはルチャが伝えたかったことを話す。

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