最強? ハメルカバーの驚異!

 ボクたちも、ようやく二周目に突入する。


「ゆったりしたコースなら、楽しめるのにね」

 レースでなければ、非常に走りやすいコースだ。


「気に入ってくれて、何よりじゃ!」

 ハメルカバーが、ボクたちのすぐ後ろにまで迫る。


「待てソー、前を!」

 ハメルカバーの行く手には、ボクが落としたバナナの皮が。


「あらああ⁉」

 なんと、まともにスリップしてしまったではないか。

 轟音を立てて真正面に転倒する。

 楽器があちこちに跳ね回った。


「あわわわ、ごめんなさい!」


 車から降りて助けようとするボクを、セーラさんが制する。


「これしき、問題ない」

「ええんじゃ、ダイキ。勝負は時の運じゃて」


 体勢を立て直している間に、遅れてきた幼女魔王がハメルカバーを追い越していく。


「勝負は、もらった!」

 幼女魔王が、勝利を確信した。


「手強いな。ソー、フルパワーだ」

「ちょうどええわい。こっからはハンデなしじゃけん!」


 セーラさんのギターが火を吹き、ハメルカバーが爆音を上げる。

 横倒しになっていた車体が跳ね上がり、体制を立て直す。

 散乱していた楽器まで、再生した。


「あれは、バフの魔法!」

 チサちゃんが、セーラさんのギター演奏を見ながら叫ぶ。


「バフってなに、チサちゃん?」

「戦闘力を増幅させたり、ピンチを切り抜けたりする魔法のこと」


 セーラさんは演奏をしながら、音楽という形でバフを唱えているらしい。


「よし、準備いいぞ。ソー」


 多脚が土煙を上げて、猛烈な回転を始めた。


「次は、こうはいかんぜ!」


 腹の底から声を出し、ソーが魔王を追い上げる。


 追われる側となった幼女魔王の顔が、青ざめていく。


 そりゃあそうだろう。

 さっきまで死に体だったLOが、瞬時に息を吹き返したのだから。


「追いかけよう」


 ソーの戦い振りを見てみたい。


 ボクは、スピードを上げた。

 追跡するくらいなら、特にドライブ技術は必要ない。


 ソーはカーブすら意に介さなかった。

 多脚戦車の特性を活かし、減速することなく魔王たちを追い抜く。


「あいつ、チートだろ⁉」

 追いつかれたネウロータくんが、思わず音を上げた。


「あの巨体でカーブをノーブレーキで曲がるなんて! バケモンだわ!」

 マミちゃんも、驚きの色を隠せない。


 腕に覚えのある幼女魔王さえ、舌を巻く。

 追い抜こうとするが、風圧に飛ばされてしまった。


「うわああああ!」

 魔王が、奈落の底へ転落しそうになる。


「危ない!」

 ボクは速度を上げて横付けし、魔王の乗るマシンを押し戻す。


「ありがとう!」と、魔王から礼を言われる。


 だが、ソーはあっさり勝ってしまった。


「危うい局面だったが、惜しかったな」

 セーラさんが相手を労い、ソーがコースを見回す。

「落ちても問題ない。雲がクッションになってくれるからな。あとはダスカマダの運営が引き上げてくれる」


 コースアウトしても、運転継続が可能なら、レースに復帰してもいいらしい。


 あれだけ自信満々だった幼女魔王は、肩を落としていた。


「強いね、あのLO二人」

 車を止めて、相手の様子をうかがう。


 おそらく、これまで戦ってきたどのLOとも、格が違った。


「ソーは走行担当、セーラは魔力付与を担当しているっぽい」


 荒ぶるソーの魔力を、セーラさんがコントロールしているらしい。

 あれだけの魔力を制御できるとは。

 まさに、互いの特性を活かし合っているコンビだ。


「どうして、二人はLOなんかに落ちたの?」


 これほどの力を持っていながら、LOに転落するなんて。


亜神ア・ジンに挑んだからじゃ」


 ソーが教えてくれた。


「我々は、神の使い。他の神が世界を牛耳ることを、快く思わない。だから、亜神を排除しようとしたのだ」

「けんど、返り討ちにあったんじゃ」


 神の使い二人だけでは、亜神には敵わなかったらしい。


「それでLOに堕ち、今日まで反撃の機会を伺っていたんじゃ」

「野心は、消えていないってこと?」

「そうじゃ。ただし、やるからにはフェアプレーじゃ。反則は好かん。身体一つで勝負せんとな」


 今までのLOと違って、こういうところは清々しいな。


「うん。ボクだって負けない」

「本番、楽しみにしとるけんの」

 

 セーラさんがギターを弾くと、ソーがエンジンをふかす。


「じゃあの!」


 LO二体は去っていった。



 強い。今度こそ、負けるかも。

 弱気の虫が、ボクにのしかかる。 


「ボクじゃ、あの二人に勝てないよ」

「大丈夫ダイキ。望みはある」


 チサちゃんの他に、励ましてくれる相手が。ククちゃんだ。


「そうですわ! スタンプを使えばいいのですわ!」


 スタンプ?


「このスタンプは、レベルになっていますの! このエリアは、戦闘行為が禁止でしょ? スタンプは、その代わりなのですわ」

「そういうルールにしたのです」


 なるほど。スタンプラリーも、ムダじゃなかったんだね。


「ボクが持っているスタンプは、五つだ」




 スタンプが、金色に輝く。




「レベル、三〇〇だって!」




 大量のスキルポイントを手に入れた。

 すべて、運転能力に注ぎ込む。


「もう一つダイキ、あとは」

「うん。そうだね」


 ボクと言えば、極振りじゃないか。


 今まで得たスキルを、再度振り直す。

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