顕現、ハメルカバー

 一度、現場を見せてもらう。


 レース会場への入り口は、王宮から見える霧まみれの山を進んですぐのところにあった。


 霧を抜けた途端、ワープしてきたような錯覚に陥ったけど。

 まあいい、考えないようにしよう。


「古戦場【ワターキシマ】の説明はしとるな? このコースを先に参集したやつが勝ちじゃ」

「慣らし運転もしていくといい」


 LO天使たちが言うので、ボクたちは車を用意する。


「最初の二週は軽く流しましょ! 三周目でレースよ!」

 グリップを握り、マミちゃんがアクセルを吹かす。


「望むところだ!」

 マミちゃんとネウロータくんが、やる気になった。


 二人はレースに関係ない、参加賞の枠だ。

 リタイアさえしなければ、スタンプをもらえる。


「おいLO。しょうぶしろー」


 ボクたちが話し合っていると、幼女魔王コンビが天使コンビに対戦を要求してきた。

 魔王と玉座が乗っているのは、古めかしいスーパーカーだ。


「ええじゃろ。ウォーミングアップじゃ」

 LO天使たちが、空に向けて指を鳴らした。


 現れたのは、南米のカーニバルで見るような巨大フロートである。大量のアンプを、電飾や羽根でデコレーションしていた。


「それが二人の車? フロートって、遅いよね?」


 フロートって、パレードをのっそりゆっくりと進むイメージしかないけど。


「まあ見とれ」


 と、ソーが車輪を担ぐかのように腕に通す。セーラさんも、同じようにした。


「変形!」


 ロボットであるソーの形状がバラバラになって、セーラさんを包み込む。

 まるでドレンのように、ロボットから車両へと変形する。


「なにあれ⁉」

「すごい!」


 あまりにも規格外な状況に、ボクたちは言葉を失う。


「顕現、ハメルカバーッ!」


 フロートとLO同士が融合して、一体の多脚戦車と化した! 

 三葉虫を模した、ステージを思わせるシルエットである。

 セーラさんの背面には、自動演奏の楽器類と大量のアンプが。


「どうじゃ? これが我らが主神、神の戦車【ハメルカバー】やけん!」


 ボンネットに当たる部分から、目玉が開く。明らかにソーの目だった。


「もっとも、これはレプリカだがな」

 火を吹くギターを持ちながら、セーラさんがフロートの上に。


「運転は頼むけん、セーラ」

「心得ている、ソー」


 勝負は、どちらかがコースを三週しきったら勝ちだ。


 LOの合図で、スタートとなる。


 ボク以外の全員が、スタートダッシュを決めた。特に、勝負を挑んできた幼女魔王は、かなりのやり手のようだ。


 ハメルカバーも早い。全然スピードが出そうな車体じゃないのに! ゴ●ブリを思わせるスピードで、他の選手を追いかける。


 セーラさんの役割は、一体なんなんだろう?

 屋根の上でギターを弾いているだけなんだけど?


 時々ギターの先から火が出ている。

 セーラさんのギターが激しく唸るたび、周辺の楽器も演奏が激しさを増した。


 一方、ボクは言われたとおり、本当に流す。ドライブだもんね。


「うわっ、ジェットコースターみたいに一回転するよ」


 ゆっくり進んでいるから、遠心力が気になった。

 しかし、のんびり走っていても地面に落ちたりなんかしない。

 ちゃんと重力が働いているみたいだ。

 平衡感覚が無くなりそう。


 謎の重力を楽しみながら、チサちゃんはウキウキしている。


「景色もきれいだね」


 とても、大昔に戦場だったという様子がない。

 道ももっと細いと思っていたけど、二〇台くらい横並びになっても密にはならないだろう。


「おっ。これは」


 宝箱の絵が書かれたパネルが、目の前に。

 ゲームだと、これを踏むとアイテムが出るのだ。


「通過してみるね」

 宝箱の絵を踏み越える。


「バナナの皮だね」


 車サイズの『バナナの皮』をゲットした。

 しかし、みんなボクたちを追い越してしまっている。

 使いみちはない。


「その辺に置いて」


 チサちゃんが言うので、皮を道端に使用した。

 トラップとして機能するだろうか。


「お先にじゃけん!」

 ハメルカバーが、ボクたちを追い越した。


「うわ、もう抜かしてきた⁉」

 ボクが驚く間もなく、続いて少年魔王が横を通り過ぎる。


「ダイキ、いくらなんでもノンビリすぎじゃない?」

 サイドカーから、マミちゃんが声をかけてきた。


「ネウロータたちも、すぐそこまで来ているわ!」


 あ、ホントだ。トシコさんのオープンカーが見える。


「わたしたちはデート中。構わず先に行ってて」

 チサちゃんは、マイペースだ。


「そう、わかったわ。じゃあお先に!」

 マミちゃんは、レースへと戻っていく。


「楽しんでねー」

 直後、トシコさんもボクらを追い抜いた。


 ボクたちは、まだ半分もコースを走っていない。

「ちょっとスピードを上げるね」


 ボクはアクセルを強く踏む。


 S字コーナーが迫ってきた。練習も兼ねて、突っ込む。



「なにこれ、じゅうたんみたいな道だよ!」

 

 タオルの上を走っているような感覚に陥る。

 おまけに、進行方向は垂直になっていた。

 


「大丈夫。ダイキなら走れる」


 クネクネする道を駆け抜ける。


「おおおっ」

 大したドライブテクニックを持たないボクでも、どうにかうまく切り抜けた。


「ダイキ、魔リカーと大違い」

「ボクも驚いてるよ」


 きっと、黒竜ルチャのセンスが手助けしてくれたんだ。

 ルチャのスキルに、ゲームの項目はなかったもんね。

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