浴衣パーティ
「騙した形になりまして、申し訳ありません。クク様に代わりまして、お詫びいたします」
ヨアンさんとククちゃんが、三つ指をつく。
「いいですよそんなの。頭を上げてください」
「ですが、皆さんにはご迷惑を」
ヨアンさんが言うと、マミちゃんが「楽しかったわ!」と八重歯を見せる。
「バイクに乗るなんて経験ができて、楽しいわ! なんたって憧れのカリダカだもの!」
「マミ様は、皆さんと遊びたがっておりました。この機会を与えてくださって、心から感謝致します」
ケイスさんが、ククちゃんたちに感謝を伝えた。
「礼を言うのは、こちらですわ。ありがとうございました。みなさま」
涙声になって、ククちゃんはお礼を言ってくれた。
「ネウロータくんも、この大会をずっと楽しみにしていたの。この日のために献立まで一生懸命考えて、こっそり試食会まで開いて。ねえ?」
「ちょ、トシコさん!」
ネウロータくんは照れながらトシコさんに突っかかった後、セキ払いをする。
「ま、まあまあだな。ぼくも料理を振る舞うことができたし、よかった、ぞ」
素直じゃないところは、相変わらずだね。
「一位の人は、みんなと楽しいキャンプができなかった。こんなにおいしいすき焼きも、分かち合えなかった。ドライブスルーもコインスナックも、楽しめなかった」
「そうですよ。こんな面白いイベント、ボクだと思いつきません」
ボクも、マミちゃんたちの意見に賛成だ。
「ゴハンもおいしい。ありがとう、クク、ヨアン」
満足げに、チサちゃんは言う。
みんなして、「ありがとう」と伝えた。
「みなさん。楽しんでくださって、本当にありがとうございますわ。観光タイプのラリーにして、本当によかったと思っておりますのよ」
涙声で、ククちゃんは謝辞を述べる。
「私も、いい経験をさせていただきました。差し出がましいのですが、我々もあなたがたの友達として、接してもよろしいでしょうか?」
「もちろんですよ! これからもよろしく、ヨアンさん。それにククちゃんも」
チサちゃんがククちゃんと、ボクはヨアンさんと握手をした。
「ところでさ、ククちゃんはどうして、人間を玉座にしようと思ったの?」
「それは……」
まだ秘密にしておきたいのだろう。
ククちゃんは語ろうとしない。
そこまで話して、余興が始まった。
『それでは歌っていただきましょう。【オーシャ・ニブラエリス】バンド様による、【快適な終末】!』
女将さんが司会を担当している。
宴会場でショーをするゲストって、オーシャ・バンドだったのか。
「し、失礼いたします!」
ボーカルの顔を見た途端、ヨアンさんが立ち上がる。
「どこへ行くの?」
「部屋に戻りますわ! 皆様だけで楽しんでらして!」
ククちゃんと二人して、ヨアンさんは慌てて宴会場を出ていく。
ならばと、ボクたちも部屋へ戻った。
背後で、他の魔王と歌うオーシャの歌声が。
「寝るまで、みんなで遊びましょ!」
部屋に着くと、マミちゃんがそう提案してきた。
「うふふ。パジャマパーティならぬ、浴衣パーティね」
トシコさんも、女子会に参加するかのように楽しんでいる。
「楽しそう」
チサちゃんも乗ってきた。
「先に、飲み物を買いに行きましょ」
ドリンクを求めて、売店へ。
通り道に、ククちゃんの部屋があった。
ククちゃんも浴衣パーティに交わらないか、聞いてみよう。部屋をノックしてみたが、ドアは開かない。
「お嬢様の体調が優れませんので、おやすみいたします。どうか、お気になさらず」
部屋からヨアンさんの声がする。
「じゃあ、なにか欲しい物ありますか? 飲み物を買いに行くんですけど?」
「お気遣いありがとうございます。こちらはご心配なく」
ヨアンさんは、そう返事をした。
「女将さんを呼びましょうか?」
「いいえ。お仕事の邪魔になりますわ。寝ていれば大丈夫ですので」
今度は、ククちゃんの声が。あまり元気がなさそうだけど。
「わかりました。おやすみなさい」
人数分のラムネ瓶を買って、みんなで部屋に戻った。
部屋はドア以外は和室の造りで、二人部屋である。しかし、今は六人固まっているので、少々狭い。
みんな円になって、畳に横たわった。
「で、ククたち二人なんだけど?」
マミチャンの一言で、浴衣パーティは秘密会議へと姿を変える。
「やはり、まだなにか隠しているご様子です」
「尾行の様子は?」
ボクが聞いてみると、ケイスさんは首を振った。
「特には。よほど手慣れているのか、諦めたのか」
「諦めたとは、考えにくいですね」
「息を潜めていると」
「でしょうね。引き続き、警戒しましょう」
見張りも兼ねて、ヨアンさんたちにも参加してもらいたかったんだけど。
「あんまり詮索するのもなぁ。本人たちの問題だし」
ネウロータくんは、ククちゃんたち二人の問題に消極的だ。
「とはいえ、なにかトラブルに巻き込まれているなら、助けないと」
ボクが意見すると、ネウロータくんは「うーん」とうなる。
「明らかに、それを迷惑がっているからなぁ。ぼくたちから手を差し伸べると、かえって逃げちゃう気がする」
「私も、同じ意見かしら。二人は、私たちに負担をかけたくないと思ってる」
トシコさんまで。
「今は、見守るしかないわね」
「ですが」
見ているしかないというのが、もどかしい。なにかいい方法はないか。
「チサちゃんは、なにかいい方法はない?」
返事がない。チサちゃんは眠っていた。疲れちゃったみたいだ。
ボクは布団を敷く。
「あたしたちも寝ましょ!」
この日は、解散となった。
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