3-4 ダイキ VS LO【ハメルカバー】 リアル魔リカー対決!

不穏な朝

 翌朝早く、ボクはマミチャンに叩き起こされた。激しくドアをノックする音で、目を覚ます。


「どうしたの、マミちゃん?」

 ドアを開けるなり、マミちゃんが飛び込んできた。



「大変よ、ククたちがいなくなったわ!」



「なんだって⁉」

 寝ぼけていた意識が、一瞬で覚醒する。


「ククを起こしに行ったら、ドアが開いていたの!」


 早朝に起きたマミちゃんは、ククちゃんたちを暗黒ラジオ体操に誘おうとした。

 だが、ククちゃんたちが行方をくらませたらしい。


 荷物もなかった。


「ダイキ、フロント行こう」

「うん」


 フロントに向かい、女将さんに聞いてみる。


「すいません、ククちゃんとヨアンさんを見ませんでしたか?」


「いいえ。ククなら、チェックアウトもしてません」


 宿帳を確認してもらっても、二人の名前はある。


「どうかなさいまして?」

「いなくなったんです!」


「まあ!」

 女将さんは、どこかへ電話をかけた。


「えっと、あのニブラエリスさんって人を見た途端、逃げるように出ていったんですけど」

 まさかと思い、ボクは女将さんに尋ねてみる。


 黒電話を回す女将さんの指が、止まった。


「やはり、ですか」

 意味深な物言いで、女将さんは告げる。一旦電話を切って、別のところへ掛け直した。


「想像通りでした。係の者に確認したトコロ、駐車場にククの車がありませんと」


 ボクたちだけではなく、親にまで黙って出ていくなんて。


「メンテのスキをつかれたわ」


 次のメンテは、第四チェックポイントのダスカマダ王国だ。そこからゴールまで一直線である。


 この宿では、車のチェックは甘い。魔王たちの信頼に任せている。


「あの子たちが行きそうな場所なら、心当たりが」

「どこですか?」


「ダスカマダ王国内にある、『ダスカマダ王とブラジャード大公』像の前ですわ」


 山の上にある広場に建っていて、車でも行けるそうだ。


「それ、第四チェックポイントじゃない⁉」

 マミちゃんが発言した。


「どうして、先に出ていってしまったんだろう?」


 ボクタチが話し合っていると、女将さんが意味深な言葉をつぶやく。

「おそらく、行けばわかるかと」

 女将さんはどうやら、事情を知っているらしい。実の母親でも止められなかった事情が。


 場所を教わって、ボクたちは各車両に乗り込む。


「お待ちを。お弁当です。まだ朝も食べてらっしゃらないでしょ? お車の中で」

「ありがとうございます。いただきます」


 小さな包みを、女将さんから受け取った。


「ククとヨアンさんを、よろしく」

「必ず、二人を無事に連れて帰ります!」


 道中は長い。車で二時間半ほど進む。

 

 魔力補給のために、途中でお弁当を食べる。

 が、誰も積極的に話さない。

 こんなにもおいしいのに、黙々と詰め込むだけ。

 こんな寂しい食事も珍しい。


「あーもう! ウジウジしても仕方ないでしょ! ククもヨアンもきっと無事よっ! だから、しょげないの!」


「ありがとう。マミちゃん」


 落ち込むボクたちを、マミちゃん一人だけが鼓舞してくれる。一番ククちゃんと仲良くしたがっていたから。


「ダイキ、行こう」

 チサちゃんが大事に抱えているのは、ククちゃんたちの分のお弁当だ。


「うん。必ず届けようね」

 さらに一時間走った場所に、広場はあった。


 こうしてみると、両方の街を一望できる。

 思わず、見とれてしまいそうになった。

 こんな状態じゃなかったら、楽しい観光だったろうに。


 海沿いの観光都市ダスカマダ王国と、山奥の温泉国家カオスロリト友好の証として、この像は建てられたという。


 ブラジャード・ツェペリ大公の石膏像が、街を見下ろして不敵な笑みを浮かべている。


「あの像、なにか変。ダイキ、わかる?」


 ダスカマダ王の像を指し示し、チサちゃんは首を傾けていた。


 たしかに、何かがおかしいんだよなぁ。どこかで見たことがあるというか。


「ダイキ!」

 駐車場を、チサちゃんが指差す。


「あれ、ククちゃんの車だ!」

 広場の駐車場に、ククちゃんのミニバンが乗り捨ててあった。


 嫌な予感が、頭をよぎる。


「手分けして探そう」


 しかし、一時間探しても見当たらない。


 朝日が差し込む。

 ククちゃんは、陽の光に弱かったはず。このままでは。 


「クク!」

 ネウロータくんが、駐車場に向かってくる二人組を見つけた。


 トボトボと、ククちゃんが戻ってきた。マミちゃんに肩を抱かれて。


「近くの展望台で、うずくまっていたわ」

 マミちゃんは、ククちゃんの代わりに日傘をさしてあげている。


「ククちゃん、大丈夫だった?」


「わたくしは、無事ですわ」

 やつれているが、どうやら無事のようだ。


「それが大変なの! ヨアンがLOに連れて行かれたらしいわ!」

 血相を変えたマミちゃんが、事態を報告してくれた。


「なんだって⁉」


 スカートを握りしめながら、ククちゃんが叫ぶ。

「お願いです。ヨアンを助けてくださいまし!」


「どこへ行ったの?」


「ダスカマダ王国ですわ!」


 どういうこと?

 ダスカマダ王国とヨアンさんに、なにか関係があるというのか?


「本当に、ダスカマダでいいの?」

「詳しいお話は、現地で致しますわ」

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