真実より、みんなですき焼きを

 五〇人くらい入れるほどの宴会場で、他の魔王たちは豪華な料理を食べている。


 ステージでは、もうすぐ何かのショーが始まるらしい。


 ボクらは、全員浴衣姿だ。男性陣は青の、女性陣は赤いストライプ柄である。


「みなさんのおっしゃるとおり、私、ヨアンは女性です」

 夕飯は、ヨアンさんの告白から始まった。

 彼女の着ている浴衣も、赤い。


 だが、ボクたちは目の前でグツグツと煮えていくすき焼きに釘付けだ。


「先に食べましょ! その件に関しては、後でじっくり聞くからいいわ! いただきます!」


 マミちゃんの鶴の一声で、夕食が始まる。特に怒っている様子もない。


 ボクたちは、お鍋をつつき合う。


「ハフハフ。おいしいこれ!」


 熱いので少しづつ口に入れながら、チサちゃんが感想を述べた。

 お肉は牛と豚、どっちもある。


「こちらの宿は、すき焼きに白菜も言えるのですね」


 野菜やキノコ類ばかりを取りながら、ケイスさんは鍋を堪能する。すき焼きって、白菜入れるものだと思っていたけど。


「ゴハン欲しいね!」

 ボクは店員さんに頼んで、白米を要求する。チサちゃんもオーダーした。


「やっぱりだ。ゴハンと食べると最高にうまい!」

 すき焼きとライスをかきこむ。


「おいしそうね! あたしもライスをもらうわ!」

 大盛りゴハンを注文し、マミちゃんもすき焼きライスのトリコになった。


「どうしたの、ククちゃん? 全然食べてないじゃないか」

 ボクはククちゃんのお椀を覗き込む。


 溶き卵だけで、何の具にも手を出していなかった。


「あのーもしもし、ひょっとして、わたくしたちの告白は、興味がないと?」


「いや、あるんだよ? けどねぇ、もうサウナのときからお腹が空いて空いて」


 昼食がささやかだったので、胃袋が限界を迎えていたのである。おまけにカロリーを大量消費するサウナだ。おまんじゅうなんて、あっという間に消化されてしまった。


 スムーズに話を聞き出すため、ククちゃんたちをリラックスさせたいって気持ちもある。でも半分程度だ。

 もう半分は、ただお腹が空きすぎているだけ。実に情けない。


「お腹が落ち着くまで、お話は中断してもらえるとうれしい。二人も食べな。空腹じゃあ、ろくに判断なんてできないからね」


「では、いただきますわ」

 食欲がないながら、ククちゃんは手を合わせた。ヨアンさんも。



「待った。このネギがいいカンジに煮えてうまいぞ」

 ククちゃんの器を取り上げて、勝手に筒切りのネギをブチ込む。ネウロータくんはネギを豚バラと巻いて、ククちゃんに器をよこす。


「しいたけは、入れないでくださいまし」

「バッカお前、しいたけを入れないすき焼きがあるか?」

 懇願するククちゃんを無視して、ネウロータくんはしいたけをククちゃんのお椀の中へ。


「この牛、ちょうど茹で上がった頃だわ。どうぞー」

 トシコさんはヨアンさんのお椀に、お豆腐と牛肉、しいたけを放り込んだ。


 ネウロータくん&トシコさんコンビは、器によそう係と具を追加する係に専念している。


「二人は食べないの?」


「ちゃんと食べてるわよっ。お鍋を管理するほうが楽しいの」

 トシコさんが言う。


「そーだそーだ」


 二人揃って、鍋奉行だったとは。


「おいしい。落ち着きます」

 ようやく、ヨアンさんに穏やかな顔が戻った。


「しいたけがこんなにおいしいとは、気づきませんでしたわ」

 好き嫌いの多いククちゃんが、キノコを口にしている。


「だろぉ? しいたけの味がわかってきて、ようやくすき焼きの醍醐味がわかってくるんだよ。それにしても、いいしいたけだぜ」

 ネウロータくんの言い分は、まるでおっさんみたいだ。子供の発想じゃないよね。


「みんなと同じものを食べ合うって、いいだろ?」

 真面目な顔になって、ネウロータくんがククちゃんに問いかける。


「血を吸って生きられるヴァンパイアからしたら、そんな考えは乏しいかも知れない。けど、たまには下々の人々と食卓を囲むってのも、いいもんだ」


 ホント、達観しているな。ネウロータくんって。


 彼はかつて、自分の妹であるキュラちゃんを失いかけた。その経験が、今のネウロータくんを作っているのだろう。



 みんな、成長しているんだ。ボクも、成長できるのか。発展しているのかな。


「悪くないですわね」

 ククちゃんにも、笑顔が戻る。 


「よかったね、チサちゃん」

「一緒にゴハンを食べるの、楽しい!」

 チサちゃん、ククちゃんとゴハンを食べたがっていたもんね。



 シメのおうどんも終わり、デザートが来た。


「これ、朝に車で運んだ果物だ!」

 デザートは、メロンのような物体だ。一口だけ食べてみる。


「いい香り、味も同じだ」

「こっちにも卸していたみたいね。ダイキさん」


 口に入れてみてわかった。

 やっぱりレモンだ。レモン味のメロンだ。


「それは我々ヴァンパイア族が、血液以外で摂取する栄養食ですわ」


 ヴァンパイア族はこれを食べるだけで一日何も食べなくても生きていけるという。いわゆる、バナナのような完全食らしい。

 それが最近「おいしい」と評判になり、いろいろな料理やお土産品に使われるように。


 おかげで、供給過多になってしまったとか。

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