ワサビは欲しい

「それじゃあ、はじめてちょうだい!」

 マミちゃんが使用人さんに指示を出す。


 そうめんが、竹の樋を流れてきた。


「来たよチサちゃん。それをお箸ですくって」


「こう?」

 勢いよく、チサちゃんがそうめんをすくう。


 流れていった残りのそうめんは、ボクが引き受けた。


「こうやっておつゆを付けて、ズルズルッといって」

「ズルズル」


「そうそう。上手だよ」

 初めてなのに、チサちゃんはうまくそうめんを食べている。



「どうチサ、おいしい?」


「すごくおいしい!」

 次から次と流れてくるそうめんを、チサちゃんはお箸で掴んでいった。


「おソバみたい」


 ゴマトマにもおソバ屋はあるけど、そうめんという発想はなかったな。今度試してみるのもいいかも。



「山に建てたんだね?」


「海でも建ててみたのよ。そしたら、支える竹が安定しなかったの!」


 待っていると、足下の砂が焼けて熱い。

 風が吹いたら、お椀に砂が入ってしまう。

 など、踏んだり蹴ったりだったとか。


「海風すごかったもんね。遮るモノがないから」


 以上の理由で、流しそうめんは山で行うことにしたらしい。


「他に問題点はあるかしら?」


 チサちゃんの前方に陣取って、マミちゃんも食べる体制に。


「独り占めする人がいたら大変だね」


「それもそうね! ワタシも意地汚いから、気をつけないと!」


 言ってるそばから、マミちゃんはそうめんを独占し始める。

 これではボクたちにまでそうめんが行き渡らない。


「あと、ワサビが欲しいかな?」


 言うなり、マミちゃんがこの世の終わりのような顔になった。


「ああ! あの辛いの? あんなのが欲しいの? 全部あげるわよ!」


「いいよ悪いから」


「あんなの喜ぶなんて、ケイスくらいよ!」


 指摘通り、ケイスさんは自分からワサビを食べている。

 苦悶と恍惚の表情を交互に浮かべていた。


「欲しい人もいたら、用意した方がいいかも」

「検討するわ!」


 希望者にタダであげることに、その場で決まる。

 すごくアバウトな政治だなぁ。


「いらないのに、もらったの?」

「勝負が終わって、ネウロータが勝手にくれたの! 余ってるからって!」


 ん、ということは?


「ネウロータくんと戦ったの?」

「ええ! 魔リカー勝負だったわ! アタシが負けたけど!」


 そっか、マミちゃんはゲームに偏見ないんだったね。


 でも、マミちゃんを負かすなんて。

 強いな、ネウロータくんは。


「接戦でした。最後の直線まで同率だったのですが」


 ケイスさんによると、トシコさんの声援を受けたネウロータくんが、逆転したという。

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