第74話 エ・ロ(エンプーサ・ロード)

「あれは【エンプーサ】という魔物の一種」


 チサちゃんによると、名前の意味は『メスカマキリ』で、『乱入者』の意味も持っているらしい。


「その蜜はわたくしの大好物なの。せっかくカブト兵とクワガタ兵に守らせていたのに、倒しちゃうんだもんな~」


 落ちた瓶に残った蜜を、エンプーサはツインテールの髪ですくい舐め取る。


「だから、あんたたちを代わりに食べちゃおっかな?」


「そうはいかない」

 チサちゃんが、ボクのイスから降りた。


「危ないよチサちゃん!」


「ダイキはみんなの回復を急いで」

 有無を言わさず、チサちゃんはボクに指示を出す。


 ボクはスコップを反対に向けた。


 スコップの柄尻には、回復魔法を発動させる宝珠が取り付けられている。


「ヒーリング」

 ボクはスコップを片手で頭上に掲げ、宝珠を天にかざす。


 治癒の呪文を唱えると、宝珠が光り出した。

 半球状のドームがボクの周囲に広がっていく。

 

 エィハスたちに、治療が行き渡った。


「おお、なんとも温かい魔法であるか」

「居心地がいいね」


 ゼーゼマンとオンコが、ドームの中でくつろぐ。


「すまない、ダイキ。もう動けそうになかったのだ」

 エィハスまで膝を突くくらいだ。相当緊張感のある戦いだったのだろう。


「回復している間に、決着を付ける」

 チサちゃんが、杖の先をエンプーサに向けた。


「この森から出ていくことを推奨する。さもなくば倒さなければならない」


「出て行くのは、あんたたちよ。魔王チサ」

 このモンスターは、チサちゃんを知っている?


亜神ア・ジンから、この森の再支配を依頼されたけど、そういうこと? あんたがわたくしのターゲットなのね? なら話が早いわ。わたくしとあなた、どっちが魔王に相応しいのかしら?」


 このエ・ロと名乗る魔物、自分がこの世界の魔王に取って代わるつもりだ。


「悲鳴すら引き裂いてあげる!」


 鎌状の、ツインテールが唸った。

 絶対防御を誇る、チサちゃんの魔法障壁すら切断する。

 油断していたが、エンプーサは相当に強い。魔王の力を退けるなんて。


「大丈夫、チサちゃん?」


「相手はただのモンスター。後れは取らない」

 あくまで、チサちゃんは冷静だ。


 緊張しつつ、ボクはチサちゃんの勝利を確信していた。

 なぜか、分かるのである。


「おほほ~っ! そのモンスターに押されているのは誰かしら~?」

 モンゴリアンチョップの要領で、双方からツインテールが飛んでくる。


 剣豪の一撃とも匹敵する攻撃を、チサちゃんは片手で受け止めた。軽々と、ツインテールを弾き飛ばす。

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