第44話 ドレンと、黒龍ルチャ

「コイツの戦闘スタイルを考慮して、モンクタイプの武器防具でまとめてみたぜ」


 モンク、つまりボクは武闘家タイプか。たしかに、イノシシも武器を持たずに組み伏せたからね。


「さすがの作りです。ショップ品の数倍は売値がつくでしょう」

 スコップ、もとい偃月刀の出来に、セイさんが舌を巻く。


「考えましたね、ドレン。初心者は長い柄の武器を扱う方が、ケンカに強くなるとか」


「それはコイツ次第だ。チサ公に死なれたら、オレも目覚めが悪いからな」


 これが俗に言う、ツンデレというヤツなんじゃないかな?


「どの武装も、この宝物庫でトップレベルの装備品です。他の冒険者から怪しまれないように、見た目を売り物レベルに変化させています。よほどの熟達者でない限り、察知されません」

 セイさんの観察眼が光った。

 うらやましがっているようにも見える。


「ありがとうございます。ドレン」


 ドレンは「へっ」とこぼす。


「でも、どうして。協力してくれる気配なんてなかったのに」

「オレ様のパイセン、黒龍ルチャのお導きよ」


 黒龍の名は、ルチャという名前らしい。

 プロレスラーみたいだな。


「【黒龍拳】ってのはな、黒龍パイセンに認められたヤツにしか伝承されないんだ。ヘタに習得して、黒龍の毒に魅入られちまったヤツらを、オレは随分と見てきた。みんな血を求めて殺しまくりだ。どいつもこいつも、ロクな死に方をしなかったぜ」


 それだけ、危ない武術なんだとか。


「だが、お前さんは違うようだ。黒龍のアニキが認めたんだからな」

「黒龍さんとは、ご兄弟なので?」


「オレ様は、パイセンの舎弟だった。両親が勇者の手で殺されて、やさぐれていたオレを拾ってくれたんだ」


 ドレンを一人前のドラゴンに鍛えたのが、黒龍ルチャだという。


 黒龍ルチャも、勇者の手で死んでしまったが。


「てめえダイキとか言ったな。チサ公を守りたいなら、本気でいきなよ。お前さんのマナは分かるぜ。だが、その優しさは敵に向けるときは気をつけるんだ。つけあがらせるなよ」


 敵に情けをかけるな、と言っているのかな。


「ボクは、チサちゃんを守るために来ています。ケガをさせないように努めます」


「なんも分かってなさそうだな」とドレンに呆れられた。

「オレ様はお前さんの方が大ケガしないか、気になるけどな」


「それはわたしも、同意見」


 そんなー。


「あと、コイツも忘れるなよ」


 さらに念力を使って、ドレンがブレスレットをボクの手首に結んだ。

 ブレスレットには、中央に青い宝石が埋め込まれている。


「これは?」


 変身ツールかな? ボクはそんな歳ではないのだが。


「アイテムボックスだ。金はギルドカードを見せれば支払いできるが、アイテムはそれがないと不便だぜ」


 中央の宝石にアイテムを当てると、収納が可能らしい。


「重ねてありがとうございます、ドレン」

「へっ。とっとと行きやがれ」


 ドレンとは、まだ打ち解けられそうになかった。

 けど、悪いヤツじゃないのは確かである。

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