第8話 魔王運営農園
「じゃあ、ボクは何をすれば?」
「メンタル面のケアですね。ただ側についてくださるだけで、魔王様は精神的に安心するようですので」
いるだけでいいのか。
「今日は何をしよっか、チサちゃん?」
食べながら、チサちゃんに尋ねる。
「お外に行く。この土地が何をしているのか、案内する」
チサちゃんは、空の方を指さす。
「この周りを見せてくれるの?」
「今日は、城周辺を案内する。領地で働く人たちも紹介するから」
食べ終わると、チサちゃんはボクにもたれ掛かった。
「具体的に、どこへ行くの?」
左手が農園、右手には小さな街が広がっている。
「農園に行く。街へ品物を卸しているところだから。とくに果樹園が自慢」
「果樹園か、楽しみだな」
「うん。きっと楽しい」
「そうだね。一緒に見て回ろうか」
「むふー」
チサちゃんが、ボクの言葉を聞いて微笑む。
ボクとチサちゃんは立ち上がって、城を出た。
城と言っても、外見は二階建ての洋館に近い。
尖塔が三本と、使用人用の部屋が少しあるだけ。
「行ってらっしゃいませ、お二方」
「あれ、ついていかなくていいので?」
なぜか、セイさんはお留守番だという。
「城を留守にはできませんので。それに、大人を介さないスキンシップも大事でしょ?」
これは、いつまでも煮え切らない態度を取っているボクへの配慮だ。
「ありがとうございます。ちゃんとお守り致しますので」
「存じ上げております」
セイさんに見送られ、本格的な異世界探索が始まった。
ここで、ボクのできることを探そう。
自慢だという農園へ。
小さな農地が広がっている。
細い川を挟み、農作業をしているのは二、いや三面ほど。
小麦畑が大半で、一部の畑ではカボチャを植えている。
黄色い果実がなる果樹園まであった。
家庭菜園とまでは行かないが、一国一城の主が持つ畑にしては、小さすぎるか。
他は、草原だらけだ。耕そうにも、人手が足りないらしい。
数名の村人が、ボクたちに気づいた。
農家の方を紹介してもらい、挨拶をかわす。
「この土地は、こんなに肥沃なんですね」
「魔王・チサ様の魔力のおかげです」
農家の方にうかがうと、この土地は元々、草も生えない荒れ地だったという。川もなく、水はけも悪かった。
そこにチサちゃんが顕現したことで、土地のマナが安定し、わずかだが川や湧き水も流れてくるようになったとか。
魔王って役に立っているんだ。魔王業務には、そういう効果があるらしい。最強の生産職だな、魔王って。
この土地で最も広いのは、果樹園だ。
黄色い実が、背の低い木に実っている。
この果実を、ボクはよく知っていた。
「これは、オレンジ?」
「そう」
オレンジ、という言葉に、チサちゃんは反応する。
この世界では、ボクの見聞きしたモノは、ボクの知っているものに近い「視覚・聴覚情報」として変換されるらしい。
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