第二段階

「コトリ専務、聞いてもいいですか」

「イイよ」

「魔王の組織がなくなったらどこが有利になるのですか」

「そりゃ、自分で手に汗して働かなアカンようになる。クソエロ魔王にとっては辛いんちゃうかな」


 ずっこけそうになりましたが、魔王がコンビニとかでアルバイトしている光景が浮かんできて思わず笑ってしまいました。


「それと犠牲者が減るよ。女をさらうにしても、生命力を吸い取った後の犠牲者の処理にしても一人でやらなアカンからな。穴掘って埋めるにしても魔王が自分で掘ることになるし。そうせんと警察に追っかけられるし」

「そこは組織が無い分だけジャンプして宿主を変えれば済むのでは」

「その辺も考えてるのが第二段階」


 ここで前からの疑問を、


「これだけ女神の戦術が有効なら、舞子の時も、エレギオンの時もなぜ使わなかったのですか」

「それねぇ、人相手の時はエエんやけど、神相手の時は力の差がかなりないと使えないのよ」

「魔王はそれだけ弱ってるってことですか」


 コトリ専務の目が細くなります。この目が細められるコトリ専務を見るのも久しぶりです。


「クソエロ魔王はミスを冒したわ、それも致命的なミスを。クソエロ魔王はたった十二年しか待てなかったのよ」

「たったですか」

「そうよ、武神の回復は遅いのよ。早くとも後五十年は待つべきだった。それを焦ってしまったのよ」

「ご、五十年ですか」

「ホントは百年ぐらいかもっとよ。それだけ焦ったのはミサキちゃんを見つけたため。ミサキちゃんに戦う力がないのを見抜いて、手っ取り早く回復できると思ったのよね」

「でも危なかったです」

「たしかに。あれはこちらのラッキーだったけど。本来のクソエロ魔王ならもっと慎重なのよ。あんな回復段階では絶対に手を出さないの。だからボロが出たし、出たボロが致命傷になってる」

「ユッキーさんの一撃ですか」

「それもあるけど、もっと大きいのはユッキーに見られてしまったこと。ユッキーは一撃を喰らわす前の魔王を見てるのよ、もちろんその後の魔王も。力を見限られるのは神同士では致命的なミスなの。だから、あれだけ自分の組織が被害を蒙ってるのに守る力も失われたってところかな」


 ラ・ボーテ戦の裏返し状態みたいなもののようです。


「魔王の油断といえば、わざわざ東遊園地から北野まで歩いて連行しました」

「あれっ、油断とは言い切れないよ。これもホントかウソか知らないけど、あれも必要みたいなの」

「市中引き回しですか」

「というか、クソエロ魔王は相手のパワーを吸い取るためにアレやるんだけど、男って女ほどエクスタシーの回数をこなせないのよ」


 しまった、コトリ専務の大好きな話題に引きずり込まれてしまった。


「そうらしいですね」

「だけどクソエロ魔王の感じ方は特殊で、女がエクスタシーに達すると、ようわからへんけどエクスタシーに近いものを感じるみたいなの」

「はぁ」

「それもね、女がより絶望感に浸っている時ほど強烈らしいの。具体的にはクソエロ魔王に犯されて初めてエクスタシーに達した時かな。誰だって、いくまい、感じまいって必死になって頑張るんだど、それがすべて突き破られる時ってところよ。つまりミサキちゃんをわざわざ連れて歩いたのは、味を良くするために重要なひと手間って感じ」


 やはり変質者のクソエロ魔王だ。


「あの時にミサキが声を出せないだけでなく、体の動きさえ操られてしまったのも魔王の力ですよね」

「あの程度は簡単なの。ちょっとやってみようか」

「コト・・・」


 しゃべれないし、動けない。いや、勝手に立って、ちょっと待って、コトリ専務、ミサキになにをさせようっていうの。勝手に手が動く、ダメだって、これはテストというか体験でしょ、それはダメ、ウソそこまで、こんな真昼間に許して・・・


「ざっとこんな感じ。ミサキちゃんにかけるのに時間がかかったのは回復がその時点でも、そんなものってところよ」

「はぁ、はぁ、はぁ、コトリ専務、なにをさせるんですか!」

「怒らない、怒らない、ほらちゃんと服を直して」


 どうしてストリップなんてさせるのですか。それも最後まで脱がさなくてもイイじゃありませんか。それもポーズまで取らせるってどういうことですか。


「女同士だから気にしないで。コトリにレズっ気はゼロだから」


 だからといって、素っ裸になって良い訳じゃありません。


「一緒にお風呂入ったと思えばイイよ」


 思えません。やっと服を着直して、


「悪ふざけにも程があります」

「ゴメンゴメン、つい」

「つい、じゃありません」

「でも、あそこでちゃんとやめたじゃないの」


 あのねぇ、なにが『ちゃんとやめた』ですか。というか、どこまでやらせる気だったのですか。


「それにしても・・・」


 やっと真剣な話題に戻ってくれたみたいです。表情が違いますもの、


「ミサキちゃんの体って綺麗だね。コトリのレズ経験はとにかく悲惨すぎて、あれでトコトン懲りたけど、やり方変えれば楽しめるかもしれない」

「ミサキにはレズっ気はありません」


 どうしてコトリ専務はこの手の話題になると限りなく脱線するのだろう。というか、チャンスがあれば持ち込もうとしているようにしか思えません。


「そうそう、第二段階が順調に進んだらユッキーにも帰ってもらうわ」

「えっ、だいじょうぶなんですか」

「だって、だいぶ御無沙汰になるじゃないの。マルコだって、ミサキちゃんだって、そろそろ燃えたいでしょ。あんまり我慢しすぎると体に良くなさそうだし」

「体はだいじょうぶです」


 そりゃ、したいけど。命がかかってる状態に代えられません。


「でもよく我慢してるってユッキーが感心してた。毎晩なら困るけど、時々なら聞いても良かったのにって言ってたから、別にやってもイイよ」

「けっこうです」


 イイ加減この猥談から逃げたいのですが、


「そうだ、ユッキーもこの力使えるから・・・」

「ユッキーさんはそんな人ではありません」


 女神が本気で力を使うといかに怖ろしいかよくわかりました。


「ところで第二段階は具体的にどうされるのですか」

「ミサキちゃんはエレギオンの女神の刑の話を聞いた?」

「ええ、ユッキーさんから」

「あれはこの力の応用なの」


 力を使えないミサキには抽象的なイメージしか浮かびませんが、そうですねぇ、今でいうならネットでタグ付けするみたいな感じでしょうか。聞いてる感じでは女神から伸びた糸が絡まっていく感じですが、実際のところは良くわかりません。


「人に絡めば絶対解けないんだけど、神の場合は振り解くことも可能なの」

「離れて組みあう感じに似てますか」

「似てるけど、だいぶ違う」


 ここはそれが出来るってことがわかれば十分です。


「でね、クソエロ魔王にはムチャクチャ丁寧に仕掛けてるの。そうねぇ、たぶんまだ勘付かれてないと思うよ。そりゃ、触れもしていないからね。それにクソエロ魔王は周囲への攻撃に対する警戒で目一杯のはずなのよ」

「もし勘付かれたら」

「あははは、もう手遅れよ。次座の女神の力を思い知るとよいわ。これ以上待っても同じだからやってみるか」


 えっ、そんな簡単にやってもイイのですか。ユッキーさんと相談してからの方が。


「ありゃ、相当弱ってるわ、おお、頑張る、頑張る、そりょ、そうよね。でも絶対に解けないわよ。解けないように、これだけの時間かけて準備したのだから。せいぜい暴れなさい、足掻きなさい。でも、こんなもので終りと思ったら甘いわよ、これが極楽と思うぐらいにしてあげるからお楽しみにね」


 ニコッとコトリ専務は笑われて、


「ミサキちゃん、これはね、災厄の呪いをかけたの。女神の最大の武器よ。これでクソエロ魔王は人としてまともに暮らせなくなったわ」

「これって


『永遠に苦しむべし』


 ですか」

「違うわよ。せいぜい、


『そちの恵みは永遠に断たれたり』


 程度よ」


 第二段階で人なら死刑相当ってどんだけ。

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