女神の戦術
二日後に専務室に集まって作戦会議。シノブ常務が、
「・・・マスコミ記事がすべてを網羅していませんので、そこはご了解頂きたいのですが、五年前に福岡で連続怪死事件が起こっています。この事件の真相はマスコミにも伏せられていますが、犠牲者の一人が福岡支社の社員の親戚であったので確認できました」
「やっぱり」
「間違いないかと。それと裏ビデオのチェックと、ネット上でわかる範囲の失踪者を照らし合わせた結果がこれです」
「これもだね。どこかに埋めちゃったんだろうね。で、現在は?」
「アイン・エンタープライズです」
コトリ専務もユッキーさんも資料を慎重に検討して、
「間違いない」
コトリ専務の推測は、魔王はこの十二年の間にじっとしていたわけではないだろうです。これも推測としていますが、魔王の神としての傷の修復のために人の生命力も効果があったと見ています。この仮説が正しければ、起ることは猟奇事件の発生です。さらに魔王は神ですが人として食べて行かなければなりません。で、あれば趣味と実益を兼ねて魔王のクソエロ行為を商売にしているだろうです。
「アイン・エンタープライズに乗り込みますか」
「ミサキちゃんも殺伐になったね」
だからコトリ専務には言われたくないって。
「クソエロ魔王を仕留めるのに厄介な点は、ジャンプして逃げる点なのよ」
「宿主を変えられる点ですね」
「それもかなり素早いの。アングマールの決戦の時にユッキーのが当たったのは間違いないけど、コトリのは微妙だわ。あの時にアングマール王に神はいなかったので死んだと思っていたけど、死んだのはアングマール王だけでクソエロ魔王は生き延びてた」
「そういえば魔王はコトリ専務に二度殺されかけた言ってました」
「やっぱり。一度目は使者の時、二度目は舞子の時。そうなるとアングマールの決戦の時はコトリが撃つ前にジャンプして逃げやがってたんだ」
たしかに厄介な相手です。
「ユッキーさん。このジャンプですが、どこまで飛べるのですか」
「わたしは目に見える範囲だけだけど、クソエロ魔王も同じだと思う」
「では見える範囲に宿主がいなければ飛べないのですね」
「そうなるわ」
そういうメカニズムか、
「コトリ専務」
「なに、ミサキちゃん」
「だから舞子の時は一対一で周りにジャンプできる人がいないところで戦われたのですね」
「そうだと言いたいけど、あん時はそこまで考えてなかった」
やっぱり、
「でも、たとえ魔王がジャンプしても見えるんじゃないですか」
「そうなんだけど、連続ジャンプされたら追いきれへんのよ。とにかく視野に人がいれば相当な距離でも飛べるみたいやから。クソエロ魔王も舞子で懲りてるやろうから、誰もいないところで戦うのは避けるやろし」
一撃は不意打ちで当てられても、これまでの経験から魔王も二撃目なりを予想してジャンプする可能性があります。とくに今の状況では魔王は戦うのではなく、逃げる方を優先するはずですから、いきなり乗り込んでも逃げられる可能性は大です。
「ところでガッチリ組み合った状態からでもジャンプできるのですか」
「やったことがないからわからへんけど、二度とやりたくない」
「えっ」
「コトリの言う通り、わたしも真っ平ゴメンだわ。だって・・・」
しまったと思ったら、そこからお二人の洪水のような魔王の悪口に襲われてしまいました。これは組み合う戦術は使えないのを確認出来ただけでした。
「では、魔王はどうしようもないとか」
「イイや、今回は逃がさへん」
「でもどうやって」
「女神の戦術」
「なにするのですか」
「兵糧攻め」
コトリ専務の作戦は、まず人としての魔王を攻め立てるようです。
「神といっても基本は人なのよ。人が弱れば神も弱る」
「病気にでもするのですか」
「うんにゃ、魔王はまだ直接攻めない、まずは外堀からよ。アイン・エンタープライズを叩き潰す。ユッキーお願い。一週間もあれば十分よね」
「お仕事、お仕事♪ 三日もあれば十分よ」
ユッキーさんの仕事は早かった。翌日にはボヤ騒ぎがアイン・エンタープライズに起り、その時に裏ビデオが多数発見され、そのまま社長も社員も逃亡。アイン・エンタープライズは跡形もなくなりました。三ヶ月ほどしてからシノブ常務が、
「今度はここで良いと考えられます」
「ユッキーお願い」
「お仕事、お仕事♪」
今度も裏ビデオ販売でしたが、商品配送中のクルマが事故を起こしたのがキッカケで警察の手が入り、たちまち会社ごと消滅です。その後も定期的に裏ビデオ販売、ファッションマッサージ、ホテトル、ソープランド・・・この手の商売にミサキは詳しくないのですが、嫌でも覚えさせられました。魔王の選ぶ仕事ってこんなんばっかり、これも見つかるたびにユッキーさんが、
「お仕事、お仕事♪」
軽快に潰していかれます。
「コトリ専務、モグラ叩きやってるようにしか見えないのですが」
「もうすぐわかるよ」
「それとユッキーさんばかり働かれて、コトリ専務はなにもしてないように見えるのですが」
「そう見える? だいぶ準備は進んでるのだけど」
「はぁ」
シノブ専務は、
「コトリ先輩、どうにも足取りがつかめなくなりました」
コトリ専務はニコニコ笑いながらユッキーさんと、
「そうだろうねぇ、でも、もうだいじょうぶに近くなってる」
「コトリ、そこまで出来たの」
「だいたいね」
どうにもコトリ専務とユッキーさんの会話というか戦術が見えてきません。
「なにしてるかって? だからクソエロ魔王の人としての生活を追い込んでるの」
「でも、いくら追い込んでもジャンプしたらリセットされるじゃないですか」
「ミサキちゃんにはわかりにくいかな。今はクソエロ魔王の手足をもいでるところ」
「えっ、手足を直接攻撃ですか」
「そんな残酷なことをよく思いつくね。まだクソエロ魔王に直接攻撃をかけてないって。魔王の組織を潰しているところ」
思い出した。魔王は直属組織を持ってるんだった。それも魔王型ってやつで、人としての魔王が入れ替わっても、中に魔王がいることが証明できれば首領として君臨するってやつ。
「クソエロ魔王もそうだし、組織員もそうだけどカネ稼がなきゃ食っていけないのよ。だから会社を潰しても潰しても作っているのよ」
「でもキリがないんじゃ」
「キリはあるのよ。会社が潰れりゃ収入がなくなるでしょ。会社を作るのにもカネがいるでしょ。作るための初期投資が回収できない間に潰して行ったら、手持ちの資金はいつか底を尽くのよ」
「だから出来上がってから潰してたとか」
「出来上がってある程度軌道に乗らないと察知できないでしょ。そこまで大きくしておいて潰すと効果的なのよ。それとそこまでは見逃してるから、相手も見張られてると察知されにくいし」
まあ、なんて地道な気の長い作戦です。
「組織が無くなれば決戦ですか」
「うんにゃ、まだまだ。今なんて序の口。それにもう逃がさへんよ。クソエロ魔王の奴、生活に追われまくって注意力まで落ちてるわ。第二段階にそろそろ進めるかもしれへん」
とりあえず女神の戦術って猛烈に陰険そうです。
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