初心者マーク

まっく

海へ向かって

 青い空が何処までも続いている。


 快晴とは、まさに今日の日のようなことを言うのだろう。絶好のドライブ日和だ。


 まことは、今日納車されたばかりの軽自動車に、丁寧に初心者マークを貼り付けた。


「彼氏の車の助手席に乗って、海に行くのが私の夢なの」


 彼女は、ことあるごとに、そんな他愛もない夢を口にした。


 その度に誠は「車の免許を取るには、お金も時間も必要なんだから」とか、「海なら電車でだっていけるし、渋滞もない」なんて、屁理屈を捏ねて、ずっとはぐらかしてきた。



 それでも誠は、ありったけの愛を彼女に注いできたつもりだ。


 だけど、一旦こうなってしまうと、もうどうにもならないようだった。


 時が過ぎ行く速度と比例するように、彼女の口数は少なくなっていった。


 誠が彼女の名前を呼んでも、


「どちら様ですか?」


と、まるで子供の意地悪のような返事をしたりした。


 彼女の為に、下手なりに一生懸命に食事の用意をしてあげても、


「ご親切に、どうも」


なんて、他人行儀な受け答えをするようになった。


 胸の奥のあたりが痛む。


もう、元の二人には戻れないかもしれない。


 だけど、誠はこのままでは終わりたくなかった。



 誠は、一縷いちるの望みに賭けることにした。


 彼女自身は、もう覚えていないのかもしれない。


それでも構わない。


ほんの一瞬でもいい。


以前の彼女を取り戻したい。


 誠は、彼女の夢を叶えてあげようと決心した。



 それからの毎日は、久しぶりに清々しく、充実した時間を過ごすことが出来た。


 年寄りじみたことを言うようだが、つくづく人生とは張り合いが大事なんだと思った。


 多少の苦労なんて、どうってことなどない。



 彼女の夢を叶える為の準備は、着々と整っていった。

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