ようこそ、KSG(孤立主義者限定)サービスへ!

兵藤晴佳

第1話 SNS管理者はユーザーの暴走に悩む

 この世にSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)というものが生まれて、どれほど経っただろうか。

 最初は何でも、趣味が同じだったり、情報の共有を求めたりしている人々をインターネットでつなげるという試みだったらしい。

 だが、始めた人々は、それがここまで広がると予想していただろうか?

 季節のないインターネット上の空間を前に、俺は今、そんなことを考えている。

自分で立ち上げたSNS……「孤立主義者限定KorituSugishaGentei」サービス。

 略してKSG。

 そのグループチャット機能で、俺は参加メンバーの1人に警告文を発した。

<KSGを棄てるか、彼女を棄てるか>

 本当は、こんなことなどしたくない。だが、このSNSを維持するためには、こんな見せしめもせざるを得なかったのだ。

 リアルではともかく、少なくともここでの俺はKSGの管理者、通称「首領」なのだから。

 それまで20名は入室して賑やかだったチャットの画面は、そのまま数分の間、凍り付いた。

 仕方なく、俺はほとんど同じ文言で警告する。

<KSGを棄てるか、彼を棄てるか>

 やはり、返事はなかった。横槍を入れる者はあったが。

<ルール違反したのお前らなんだからさ>

<そうだよ、なに2人でベタベタしてんの>

<ここ、そういうところじゃねえだろが>

<他んとこいけ、他んとこ>

 いったん野次が入ると収拾がつかなくなるのは、SNSの世界もリアルの世界も同じことだ。

 だが、この「孤立主義者限定サービス」は、「放っといてほしい」人たちのために開かれている。

 俺は事務的な表現で、しかしキッパリと通告した。

<それ以上の発言はアクセス禁止の対象となります>

 すると、ほとんど同時に2つの返事が同じ文字を並べた。

<時間をください>

 そのまま、問題の2名はチャットを抜けた。

 参加者は1人抜け、2人抜け、最後には俺だけが残る。

 深夜に4畳半のアパートでパソコンに向かっている、何の取り柄もないヒラ会社員の俺が。

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