二臭
「ふぁーあ」
出勤途中の信号待ちをしながら私は大あくびをしてしまう。
ちらっと周りの人に見られて――特に一番近くの緑と銀の縞のネクタイをしたスーツの男性が露骨にジロジロ見てきたので――慌てて口を隠す。
私は寝不足だった。
と言うのも、夜中になってマンションにパトカーや救急車が来て大騒ぎになったからだ。
詳しい話は教えてもらえなくて、事件では無かったらしいけど死人が出たらしいとの話だった。
「ふぁーあ」
もう一度、今度は最初から口元を隠してあくびをした私は、ふと前にブレザーを着た小さい女の子に気が付いた。
小学生かな。綺麗な黒髪がうらやま――臭い。
突然、あのすえたような嫌な臭いが漂い始めた。
まさか…このブレザーの女の子が……
「わたくしではありませんよ」
声にでもでていたのか小さい女の子が振り返って言った。瞳の大きな可愛い子だ。
「えっ?」
「ですから、わたくしの体臭ではありません。それから、わたくし高校生ですので」
「はぁ…高校生……って、貴方はこの臭いが分かるの?」
驚いて、つい出してしまった大きな声に周りが、ちらちらと私たち、じゃなくて私を見ている。
さすがに女同士だからナンパとは思われてはいないと思うけど。
信号が青に変わった。
合わせるかのように嫌な臭いが強くなった気がする。
「…次の青信号まで待つことをお勧めしますわ」
「それはいいけど、その、この臭いって――」
ガン!
すごい音に信号を渡った先を見ると歩道に車が乗り上げていた。
煙を上げる車の向こうに呆然とする緑と銀の縞のネクタイのスーツの男性が立っていた。
怪我はしていないみたいだ。
もしこの小さな自称女子高生から何も言われずにあのまま渡っていたら――
私は車から小さな自称女子高生に目を向けると…既にいなくなっていた。
あたりを見回しても、こんな出勤する人混みに紛れて探すことなんてできない。
そう言えば、あの嫌な臭いも消えている。
否定していたけど、やっぱりあの小さい女の子の臭いなんじゃないって思う。
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