命の使いみち

涼暮有人

1号室「三日月」

 いつも大人しく窓際で本を読んでいる彼女は、美しい。

射干玉の髪に白磁の肌、そして細い体つき。

病人ではあるが、身体にはなんの問題もない。

では何故入院しているのか。

それは、心に問題があるから。

彼女は、通常の人間が持つ感情を数種類失っている。

特殊な病気、「三日月病」によって。

その進行を抑えるために、外部からの刺激を避ける必要があるのだ。


 そんな彼女の日々の楽しみは、読書とネット小説の執筆だ。

私も最近知ったのだが、彼女が真剣にパソコンと向き合っている時は執筆をしているらしい。

この前の回診のときに、画面に大量に文字が並んでいるのを見てしまった。

彼女の感情が残り少なくなっていた時のことだった。


 ある日、彼女の感情は全て失われた。

しかし、感情を失ってなお彼女は執筆をやめなかった。

思えば、それは彼女の内側に少しだけ残っていた感情が彼女を動かしていたのかもしれない。

今となってはその確認も取れないが。


 彼女の遺作となった作品が出版社のサイトで賞賛される頃、既に彼女は美しい髪を綺麗な三日月の夜に靡かせてこの世を後にしていた。

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