中間報告
Д幕間闇景
光の差さない暗所の奥深く、その存在は来るべき瞬間を心待ちにしていた。
耐え忍ぶこと
(この度の
『お館様、失礼致します』
『失礼致シマスゼ、オ館サマ』
その存在から少し離れた宙の辺りに浮く、少女と少年の容貌をした二人が頭を下げて
『
自爆霊
『大変なご無沙汰をしております。お休み中に申し訳ございません』
普段であれば上がった口角は下がることを知らず、
事情を知る者が眺めれば、それは緊張よりも恐怖の色合いが強く押し出されている様でもある。
『よい。よいのじゃ。きょうの余はいたく気分が優れておるでな。して――穂”
『いえ・・・・・・それが・・・・・・まだ――』
『マダ三人シカ減ッテネェゼ。モウカレコレ二ヶ月モ経ツノニヨォ~! かたつむりヨリモ遅ェヨナァ! ゲタゲタゲタゲタ!!!』
闇に溶ける様な黒装束に身を包む、起爆霊が腹を抱えて笑いながら、ボムみを
『たわけが。口を
その瞬間、極光(オーロラ)にも似た光の風が、ふわりとボムみの脇を
つい先程まで
人間としての生理機能を捨て去った意思のみで存在する霊体へと、創造主であるそれはいとも簡単に干渉が出来る。
圧倒的な暴力の匂いが、急激に色濃くこの場を支配していく。
『ガッ・・・・・・グゥ・・・・・・(カチリ)』
ボムみの右半分の視界が赤い爆炎で照らされた際に、ほんの一瞬だけ主の姿がちらりと現れるも、すぐさま室内は真っ暗な闇へと元に戻っていた。
同時に、ズタズタにされていた起爆霊も元通りに戻っていた。きっと意識が途切れる前に自らが爆発を起こし、消滅を防いだのだとボムみは思った。
『
『ゲヘヘヘ。スマネェナオ館サマ。仰ル通リダ。まいん、少シ静カニシテオク』
先程の閃光よりも赤い舌先をチロリと
(ワタシはマイんのようには振舞えない・・・・・・出来ればプレイヤーと重なって爆発する事だって、嫌で仕方ないのに)
はるか昔に――訳あって失われた血肉と身体。
かわりに与えられた役割――すなわち自爆霊。
お館様が悲願を
ゲームの核。持ち時間を零にした参加者への、仕置の要。
その身に重なり我が
過去十回にわたる開催において、ボムみはこれまで幾度も爆発――もとい参加者と共に自爆を繰り返してきた。
青い閃光に包まれ、弾け飛ぶ瞬間に痛みは無かった。無かったのだが、あの死に際の
むしろ苦痛ですらもあった。
しかしそれも、もうじき終わる。
同時にそれは――自意識の消失をも
ともかく一旦は思考を止めて、お館様から投げかけられた質問に対する回答をボムみは返す。
『はい。まずは、対戦規則に則った“憑依対象の三者間移管”がプレイヤー間で
項目の五。
【対象Bが対象C(鬼であるA・鬼に触れられたBとも異なる参加者)に接触した際、下記の通り変化が為される】
【C→A/B→C/A→C※制限時間はいずれも72時間にリセット】
残刻の
ボムみがそのまま報告した通りに、本来であればこれは決して持続しない机上の空想よろしく至上の理想論でしかない。
しかし
兄である高低ほろろ亡き今、更に別の参加者同士でも再びこの“憑依対象の三者間移管”が行使されている為、だらだらと時だけが流れ、残存するプレイヤーは一向に減らないという、
『それを防ぐ為の処刑者であろう。
やや機嫌を害したかのような、
『それがどうにも、ある参加者に対して強烈に
『追い掛け回す?
『処刑者を追跡し、殺害する為です――』
『それはそれは。ほっほっ! あたら血気盛んな娘じゃな』
理由が理由であるだけに、ひょっとして自分も八つ裂きにされるのでは無いかとボムみは思ったが、どうやら主は
『初戦敗退した参加者の血縁でして。その女が昼夜問わず襲撃を繰り返す為に、処刑者が責務を
『ふん、まぁよいわ。今のままではあの殺人狂の坊主っ子は使い物にならん事は理解した。して、続きを述べよ』
『
『不定要素、とな。
『今更言うまでも無いかもしれませんが、お館様を核として各プレイヤーに
『生命活動を停止する事が条件、なのかのう。なるほど、これまでに類を見ない、面白いチカラじゃな。だが大源である余が魂を更新し続けて今に至っておるのだし、不具合は無いのでは?』
『あくまで懸念するという点に於いて、です。捉え方によっては死後も対戦が続行可能でしょうし・・・・・・それに万が一でも、お館様に危害を加えるような事があっては私は――』
本音を隠した建前を伝えようとした自爆霊の進言を、主がさも
『仮にじゃぞ。余に弓を引く愚か者が出てきたとしても、蛮族に対抗しうる切札は既に手中に一つ持っておるでな。心配は無用、むしろ
『では、もう浄化は済んだのでしょうか?』
『未だ不完全ではあるが、めきめきと仕上がっておるぞ。
ゲームを勝ち抜いた最終の大罪人を断罪する役目はてっきり主のみだと思っていたが、はたしてそうでも無いらしかった。
(完成した“アレ”に魂の強さで対抗できるプレイヤーは、低めに見積もっても過半数以上いるだろうけど)
(でもそれだけじゃ駄目だ。動機が無いと・・・・・・その先のお館様はきっと倒せない――――)
苦虫を
『とはいえ、じゃ。のたりくたりとした一連に、余は退屈しておる。退屈だけならよいのだが、神無月までには儀式の手筈を整えたいのも、本心だでな。それをもってして――新たに進行役を投じる事に決定した。ほれ、出て来て軽く挨拶せえ』
床を何かで軽く二度叩くような音がした後、今まで息を潜めていたのか、まるで最初からその場にいたかのように、一人の人間が主の付近に姿を現していた。
真っ白なタキシード。群青と紅梅が斑となったシルクハットとタイがいやがおうにも見る者の目を引き付ける。
表情を読ませないためか、顔面をすっぽりと覆った濃色豊かなデスマスクは、自爆霊と起爆霊の発する幽光を反射し、うっすらと輝いていた。
そして2mに近い長身ながらも華奢な体躯が故か、あるいは針金細工の擬人化の様にもみてとれる。
「初めまして。ボムみちゃんに、マイんくん。この度お館様よりご用命を仕った、
何処か牧歌的なようでいて、それでいて全く感情が
胸部が膨らんでいるようには見えないことから、おそらくは男なのだろう。
『こ奴は有能であるぞ。余の御目に適う程には、な。さて、では引継ぎと行こうかの』
「ご紹介に預かりました通り、以降ゲームは村雨が進行を致します。暫くの間お二方の出番は激減するかもやしれませんが、そこはご了承くださいませ・・・・・・」
「まず、お館様がご心配にあられる“進行速度”でありますが。手始めにこの現状を破壊し状況を加速するべく、参加者を一箇所に集めた上で、対戦規則の大幅な書き換えを行います」
「参加者同士が徒党を組んだとしても、1対1の構図はなまなかに
「場所を準備するのに1ヶ月程時間をいただいた後に、アプリケーション【BomB!maP】にて残存するプレイヤーに一斉周知を行います。従わなければその場で爆死いただきますが、原則それまでは残刻の
『わかりました・・・・・・』
有無を言わさない、淡々とした頼みごとならぬ命令に対して、ボムみは
「続けて、現時点での各参加者の状況及び大罪順位についてですが」
村雨がつらつらとお館様に向けて報告を行う。
・大罪ランク 1位:
・大罪ランク 2位:
・大罪ランク 3位:
・大罪ランク 4位:
・大罪ランク 5位:
・大罪ランク 6位:
・大罪ランク 7位:
・大罪ランク 8位:
・大罪ランク 9位:
・大罪ランク10位:
・大罪ランク11位:
「・・・・・・と、このような具合です。高順位の参加者の減りが目立ちますね。これも通例とは異なる経過だと感じます」
一般的に罪のランクが低ければ低いほど固有能力は暴力的なものになりがちであり、高ければ高いほど生存に特化した能力であるのが定説である。
しかしこと今回に限っては、最高位が既に死亡――且つ最下位がそれこそあって無い様な能力であることも前例の無い異例中の異例であった。
順当である筈の者が早々に盤上から消し飛ぶ不測が不測を呼び、通常一ヶ月もあれば決着が着くはずのゲームがその三倍近い期間が経過しているにもかかわらず、未だ半数以上が生存しているという荒れに荒れるイレギュラーの嵐。
だからこそお館様はわざわざ自分達――爆霊以外の実体がある進行者を場に投じて、一気にゲームを終わらそうとしているのが容易に想像できた。
だが、ここで主は更に予想外の指示を村雨へと投げかける。
『村雨や。うぬが手を掛けるに事が早まるのは天命であろうが――念の為に“
何気ない一言であったのだろうが、自爆霊・起爆霊共に、主の発した――それこそ爆弾発言に絶句する。
(いやいやいやそれってもう――)
(全員勝タセル気、マルッキリ無ェダロ・・・・・・)
「
『それぐらいやらねばな、有終の美を飾る最終回に事欠くであろう? ちなみにじゃ、村雨は今回どれが最後まで生き残ると考えておる?』
「私が考える本命は・・・・・・
『あるいは盛者必衰――
『仰せの通りに――』
『合点承知ダゼ!!』
『必ずや――良き結果を御報告できますように』
―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―
暗澹たる会合が終わり、49日の日数が流れた後に。
血で血を洗う、戦慄の第2ラウンドが幕を開ける――。
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