【4/23 18:19:44 厚山太 残刻 00:10:52】(1)

 にしても遅いな、と。



 アニメキャラがプリントされた限定品レアモノであるプラスチック製の団扇うちわをばさばさとあおぎながら、太は一人残されたまま独りごつ。



 いや、正確には一人と一体であった。なぜなら彼には現在自爆霊ボムみがくっ付いているのだから。



「沙羅ちゃんまだかなぁ。緊張しすぎてお腹壊しちゃったのかなぁ」



 レディーに対して配慮デリカシーのかけらもない思ったままの事を口に出しながら、太は腕に巻いた時計をチラチラと覗く。



 憑依対象が自分へと移り変わってから5分と少しが経った。そろそろ戻ってきてもいいのでは? 



『おねえちゃん席を立ってから随分ずいぶんつよねぇ。そろそろ帰ってきてもいいと思うんだけどー。というか、もし帰ってこなかったら、ふとしにいちゃんの負けになるよね~』



「縁起でもない事を言うなし! 第一、かばんを置いていっているじゃないか! 財布だって入っているに違いない、戻らない訳ないだろう!」



『だといいんだけどねぇ~。まぁ仮にワタシがプレイヤーだったとしたら、必要最低限のものだけ持って逃避トンズラしちゃうと思うけどね~』



 にやにやと笑うボムみの見解いけんに、なるほど一理あると納得してしまう。



 そして、ふとテーブルの上に投げ出させれた鞄に目をやると、白い封筒が少しはみ出ているのを発見した。



 沙羅と太は今日この日が互いに初対面。



 それを加味せずとも、他人に許可なく所有物に触れたり中身を覗いたりするのは、どう考えても失礼依然にご法度に違いないのだが、つい先程同盟タッグ結成を申し出られたとはいえ、最終的には敵になる可能性だってある。



 沙羅が姿を消してから一向に戻ってこない現状にいよいよ業を煮やし、太は封筒を手にとって、中身を確認することにした。



 大学ノートの切れ端だろうか。三つ折りにされた等間隔に罫線けいせんが引かれたA4サイズの一枚紙を開くと、そこには。



     は

     い

     私

     の

     勝

     ち



 縦書きで短く、それだけが書かれていた。



 一瞬、書いてある意味が分からずに困惑する。言わずもがな太は日本語の読み書きができるし、漢字表記が読めなかった訳でもない。



 え? 何これは? どうゆう事? などと反芻リピートするも、軽く硬直フリーズする程度には、すぐさま事実を飲み込む事が出来なかった。



 あれだけ仲良くなって(と一方的に太は思い込んでいた)のに、手を組むとまで言った本人の鞄から飛び出てきたこれは、いったい何を指している?



『ぎゃははは! まんまとハメられちゃったみたいだねぇ! ウケるwww超ウケるwww』



 ボムみが腹を抱えて笑いだしたのを皮切りに、ここでようやく太は我に返った。



 軽い放心状態にあった彼は、現状自らが置かれている立場をようやくもって理解し、そして沙羅から裏切られたのだという事実に対し、ふつふつと怒りが込み上げてきていた。



 わなわなと身体を震わせながら、太はアプリを立ち上げマップを確認する。



 見ると、店内から出て道路を挟んだ向こう側の歩道あたりに、他プレイヤーアイコンがまたたいていた。



 顔を上げ窓の外へと視線を向けると、くだんの張本人である、腰まで伸びた長髪をたなびかせる、沙羅らしき人物がいた。



 スマホを取り出し立ち上げっぱなしであったアプリを見れば、位置的にもアイコンとほぼ重なる。



 そして向こうもこちらに気がついたようで、きびすを返し走り出した。



「きっ、ききき・・・貴様ぁぁあ! よくも裏切ったなぁ!!」



 激昂げきこうし、机をひっくり返し叫ぶ太。



 やり取りを知らない回りの客は突然暴れだした無法者に怯え、グラスを磨いていた店員は昨日に引続きまた不審者が出没したのかと、半ば呆れた様子で110番へ通報する準備を始めた。



 そんな事はお構いなしに、太はどしどしと音が聞こえてくるような大股でもって店内から店外へ闊歩かっぽし、息を吸い込み、先程よりも更に大きな声量でもって、怒号を飛ばす。



「絶対に許さんぞ虫ケラが! じわじわと追詰めて爆死させてやる!!」



 まだ50m弱離れていたが、その獣の咆哮ほうこうじみた雄叫びにたじろいだのか、長髪はびくりと立ち止まりチラリとこちらを振り返るも、慌てて再び駆け出した。



「どれだけ逃げようが、この太様の能力からは何人たりとも逃げられんぞ」



 完全に悪役ヒールのそれである台詞せりふを吐きながら、太は自らの固有能力を発動させるべく、アビリティ名を心の中で唱えた。



(固有能力【シアーハートサーチ】始動……!!)

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