3-1(13)

 目覚めると私は見たことのない小さな小部屋のベッドに一人

横たわっていた。

 辺りを見渡すと窓がなく村とは真逆の無表情で冷たい壁に囲まれ、

奥に見える重厚そうな扉に至ってはまるでこちらをジッと睨み付け

てるようにも見える。

 次第に足音がこちらに迫って来るのを敏感に感じ取った私は緊張

した面持ちで抱えた両ひざのすき間から扉を注視していると足音が

扉近くで突然止まった。


〈ガチャ!〉〈ガチャ!〉〈キィ――ッ〉


 扉の向こうから姿を現した小太りでヒゲを蓄えた目つきの鋭い

おじさんは私を見るなり笑顔で近づいて来た。


「お嬢ちゃん、やっと目覚めたみたいだね」

「お、お嬢ちゃんってアンタ誰よ!」

「私はココのオーナーだよ」

「オーナー? オーナーって?」

「実はこの下にクラブがあるんだけどね、そこの偉い人だよ」

「ふ~ん ところでココはトックなの?」

「特区じゃないよ、クラブだよ、フフッ!」

「何言ってのよ! あの男の人はどこなの?」

「男の人? ……あぁ、スカウトならとっくに帰ったよ、どうかした?」

「私をトックに案内してくれるって言ってたんだけど……」

「何の話かな? おじさんは何にも聞いてないよ」


「……私帰る!」〉〉〉〉〉〉


 私は一目散に扉に向かって歩き出すとおじさんは背後から私の右腕を

掴み思いっきり引っ張りこんだ。


「な、何すんのよ! イタイから放してよ!」

「困ったね~ おじさんはお嬢ちゃんに話があるんだよ」と私を無理

やりベッドに座らせ鋭い目つきで私を睨み付けた。


「お嬢ちゃん、確か7番村のうさぎクラブで働いてたんだってね」

「そうよ、よく知ってるわね」

「実はおじさんのお店もうさぎクラブとよく似た感じでね、ヘヘッ!」

「それがどうかした?」

「ハッキリ言うとおじさんのお店で働いてもらいたいんだ」

「イヤよ、何言ってんの」

「お嬢ちゃん、まだ状況が理解出来てないみたいだね。お嬢ちゃんには

断る選択肢なんてないんだよ」

「どういうことよ!」

「つまりお嬢ちゃんには自由がないってことだよ」

「何ワケ分かんない事言ってんの」

「そのうち分かるよ」と男が一瞬スキを見せたのを見逃さなかった私は

扉に向かって猛ダッシュし、こん身の力で重い扉をこじ開け飛び出した。

 

 ≪≪ドン!≫≫ 


 目の前の真っ黒な服に身を包んだ大男に行く手を阻まれ「どいてよ!」

と大声を張り上げる私を男はいとも簡単に持ち上げそのままベットの上に

放り投げた。

 

「イッ…タッ……、な、何すんのよ! イタイじゃない!」


「まっ、お嬢ちゃんには一生ココで働いてもらうから決心がついたら

テーブルにあるボタンを押してネ!」と2人は扉に鍵をかけそそくさと

出て行ってしまった。


「えっ? ちょっとま、待ってよ……」

  

……………… 

…………

……


 物音一つしない小部屋で私は一人こみ上げる涙を必死に拭いながら

まるで呪文のように幾度となく呟いていた。 

 

 これは夢だわ、夢に違いないわ。

 だってこんなことってあるワケないもん、うん、きっとそうよ。

 もうすぐ目が覚めていつもの葉っぱで飾られた可愛い天井が現れ

うさぎクラブに行く準備するのよ、きっと、もうすぐよ! もうすぐ。

 

 お、お願い…… 夢なら覚めて…… これからもっともっとイイ子

でいるから、絶対約束するわ…… だからお願い、夢ならもう覚めて。

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