終わりの花火

マフユフミ

第1話

音のないそれをただ見ている。

四角く切り取られた枠の中。夜空を彩るそれはまるで絵葉書のようで、今まさに打ち上げられているという実感を伴わない。


それでも、一心に見ている。

移り変わる色とりどりに咲く花を、ひと時たりと見落とさないように。




街は華やかな賑わいに満ちていた。

祭りを待ち望む者、その期待に満ちた眼差し。

明るい煌めきしか許されないようなそんな風景の中に、溶け込んでいるはずだった。溶け込めていると思っていた。


それなのに。


生き生きとしたその空気に、知らず知らずのうちに疲弊していたのだろうか。

倒れ伏したアスファルトの灼けるような熱さだけを、かすかに覚えている。




ここには何もない。

安い油のにおいも、笑いさざめく人の声も。

あるのはただひたすら白い壁と、清潔な薄い消毒液のにおい。


気怠い体を沈めるベッドは少し固くて、なんとなくどこか冷えている。

糊の効いた固いシーツに感じていたよそよそしさも、いつしかすっかり身に馴染んでいた。




あんなに眩しい場所にいたのか。


見るほどに信じられなくなる。

次から次へと夜空に咲く花。

淡い緑のカーテンで区切られた狭い世界の中、1人見るそれはどうにも滑稽で。


きっと、花火のようだった。

この存在の全てを駆けて、立っていたかった世界。

その眩しさも、彩りも。

見る人の記憶に鮮烈に焼き付けて、そしてはかなく消える。

キラキラキラキラ、掬いきれない光の粒はまるで星屑のようで。


つかめない。

届かない。

近づけない。


熱を帯びた腕を差し伸べる。

震える指の先で、夜空に咲いた舞台は終わりを迎えようとしていた。

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終わりの花火 マフユフミ @winterday

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