小片

The Pioneer

小片

あれから、どれくらい経ったのだろう。


私は、何もない空間をただひたすらに流れていた。否、何もない訳ではない。本当は、光子だの対生成された素粒子だのが飛んでいるには飛んでいるのだ。


ここは、どこなのだろう。


宇宙と言ってしまえば簡単だ。しかし、宇宙のどこを漂っているのか、私にはもう分からない。


近くの星まで何光年あるのだろうか。私には分からない。


もう、ほとんど何もわからない。ただ独り、流れていく。いずれ、どこかの重力に囚われて落ちるまで、私に安息の地は存在しない。


私は、もっと大きなものの一部だった。だが、その大きなものは、今の私に比べてもちっぽけで、愚かで、その癖自分は賢いと勘違いしている猿の一種のせいで粉々に粉砕されてしまった。


猿どもは、その大きなものを地球と呼んでいた気がする。だが、もうその記憶もおぼろげになってきている。


猿どもは「戦争」という命がけの暇つぶしに明け暮れていた。その中で、ただ相手を効率的に全滅させることにこだわった効率マニアが、やがて私、あるいは私が構成していた大きなものを汚すことすら厭わなくなった。


その競争は一時期は終わったかに見えたが、中途半端なガス抜きで満足する猿ではなかったため、ある時期を境に再び激化した。


それでも猿どもは自滅の道に至る最終戦争を避けるくらいの知能は一応持っていたと思う。


全てを滅ぼしたのは、ある事故だった。大きなもののある部分に予想外のエネルギーがたまり込み、そのエネルギーが発散される際に、誤って猿の最終兵器を誘爆させてしまったのだ。


だから、今私がこうなっているのは猿どもの責任だけではあるまい。不運ということもできよう。


しかし、こうなってしまった以上、私は流れていくことしかできない。安息の地まで。


私は、かつて猿が地球と呼んでいた大きなものの、小片である。

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小片 The Pioneer @The_Pioneer

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