武士が代わりに出社するとして

 一昨日、仕事の関係で急勾配の坂を自転車でのぼりきった。

 結果。

 今日、筋肉痛がやってきた。日頃の運動不足と無言で忍び寄る年齢が恐ろしい。

 加えて大寒波がそっと背中を押してくれたこともあって。朝、私は布団の中で小さく丸くなっていた。


「大家殿が蓑虫になっておる」


 オハヨ(裏声)。


「ぬ……」


 ガチでドン引くな。ますます布団から出たくなくなるだろ。


「しかし、今日も勤めがあるだろう」


 ございますね。

 そうだ、武士が代わりに行ってきてくんない?


「ふむ……確かに、いつも大家殿にばかり金を稼いできてもらうのは申し訳ないな」


 数年越しにようやくその手の言葉が。


「よし、ここは某が一肌脱ごうではないか! して、何からやればいいのだ?」


 そうだね、まずは形から入るのがいいかな。スーツを着て革靴を履いて


 髷の主張えげつねぇな。


「一を十にすることは叶わんが、十を一にすることはできる。大家殿、明日から髪を剃って髷を結うといい」


 私が寄せるの?


「具体的な仕事の内容はなんだ?」


 うーん……私は営業だから、出社したらまずパソコンを立ち上げてメールを確認するかな。


「めぇる……。たぐをつけて返せばよいか?」


 いらねぇよ。拡散前提の処理すんなや。


「#出仕でござる #今日も #一日 #きらきら社畜」


 いらん言葉ばかり覚えおってからに。


「で、エイギョーとは何をするのだ?」


 基本的にはお客様のとこ行って物を売ったり、御用聞きをするかな。あとはプロジェクトを進めたり……。


「物売りなら某にもできそうだ」


 お、頼もしい。


「まずは歌と踊りで道ゆく人の足を止めねばならんな」


 露天商やろうとしてる? いやそれ以前の別の何かだな。その野良売りで売れるのヤクルトぐらいだぞ。



 そんな話をしているうちに部屋も暖まってきたので、布団から抜け出して飯食って着替えて出社したわけです。筋肉痛については何も解決していません。

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