夏祭り1

 そういや武士を連れて夏祭りに行ったわけですよ。


「某が浮かぬ場所のひとつ!」


 ただ浮かれてるように見えるだけだと思うな。いややっぱそれなりに浮いてるわ。今道ゆく浴衣の姉ちゃんが二度見したもんな。お嬢さん、もしや生武士は初めてで?


「心なしか屋台が増えておるような気がする」


 うん、昨今感染症の影響でお祭り自体少なかったからね。久しぶりにお祭りらしいお祭りを見た気がする。

 でもマスクは外すなよ! お前まだ投薬中なんだから!


「合点承知!」


 ほんとにわかってんのかなぁ……。


 周りのお客さんの迷惑にならぬよう、筋肉の塊は小走りで屋台を見て回っている。そんな武士に逐一追いつくのが面倒で少し離れた場所から見守っていたら、速攻私を見失ったらしいヤツの声で「ぬおおおおお大家殿ぉぉぉぉぉ!!!!」と雄叫ぶのが聞こえた。ので、やむなくピカピカ光る猫耳カチューシャを買って目印がわりに装着することになったのである。



 私が。



 なんでだよ!!!!



「これなら見失わぬ!」


 意気揚々と言う武士であるが、お前目の前にいる浮かれリーマン見えてる? これ本来女児がつけるやつだよ? 私の頭ギチギチいってんだけど。


「では行ってくる!」


 聞けよ!!!!


 聞くわけなかった。武士は小走りで屋台巡りを再開した。

 ……まあ、いいだろう。ここ最近、武士は病気のせいで我慢しなきゃいけないことも増えていた。台風や大雨のせいで外出もままならなかった。お祭りは溜まったフラストレーションを発散するいい機会に違いない。

 それにこれで雄叫ばれるリスクも無くなったのだ。安心して屋台を見て回れ――。


『ピンポンパンポーン。迷子のお客様のご案内をいたします。浴衣にちょんまげ頭の成人男性……』


 なんっっっっっっでだよ!!!!!!


 こうして私は案内所まで全力疾走するはめになったのである。そう、頭に愉快なカチューシャを装着したまま――。

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