花粉

 花粉が、ばっすんばっすん飛んでいる。

 私の故郷には信じがたいほど杉が植わっており、当時中学生で県外から引っ越してきた友人が秒で花粉症になっていた。風が吹くたび真っ黄色になる杉山を睨みつけながら、「私にチェーンソーの資格さえあれば」と彼は呟いたものである。資格さえあればどうしたんだ。全部切り倒したのか。


 幸いにも、私の花粉症はさほど酷くない。せいぜい鼻が痒くなり、ちょっと鼻水とくしゃみが多くなる程度である。今住んでいる場所は杉など影も形もないのに、こんな場所まで飛んでくるとは花粉症恐るべしだ。っていうか今年、多くない?


「ずー」


 そして、本日武士が鼻水を垂らしているのを見た。

 なん、どした。花粉症?


「そうかもしれぬ」


 でも去年は全然だったじゃん。


「毎年の猛攻に、ついに某という城が陥落したのだ」


 落城しちゃったか……。まあ鼻水ふけよ。


「ちーん」


 大変だね。他に症状は?


「体のうちに花粉が入ってきておる感じがする。今も喉にはりついておるのだ。こう、屋敷に侵入してきた忍の如く」


 ああ……天井にくっついてるやつ? そんな症状も出るのか。うがいしておいで。


「あと、酷く体が怠い。花粉が大量に体に入り込むことによって、某を重たくしておるのだろう」


 うんうん、チリも積もれば山となるからね。他は?


「なんだか寒気もするのだ。まさしく、花粉には人の体温を奪う作用があるに違いない」


 よしよし、怖いね花粉は。


「あと、さっき熱を測ってみたら三十八度あった」


 よし、武士。病院行こうか。耳鼻科じゃなくて内科な。




 武士は風邪でした。みなさんも花粉と風邪にはお気をつけを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る