太っ……

 風呂上がりに、武士が落ち込んでいた。


「……」


 自分の腹を掴み、こっちを見ている。いや見るなよ、何なんだよ。


「……太った……」


 知らんがな……。


「ここ三年ほど、ずっとメシが美味いのだ。手を伸ばせば菓子もあるし、冷やき箱を開ければあいすもある。無論某も鍛錬はしておるのだが、暑き日も続くゆえついつい己に甘えてしまう日もある」


 うん。


「……」


 だからこっちを見るなって。悟って、じゃねぇんだよ知らんよ。


「食うても食うても減らんどら焼きが欲しい」


 そこは食べても食べても太らないどら焼きだろ。滲む欲望に太った原因が透けて見えてんだよ。


「こうなれば最後の手段」


 何?


「おやつの回数を減らす。五度から四度に」


 元より多いな? せめて二回ぐらいにしといてよ。


「ほれ、大家殿も摘んでみろ。某の腹肉」


 そのままちぎって捨てていいなら……。


「ダメに決まっておる!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る