食に関しては右に倣えない
「皆に支持されるものが、自分にとって良いものとは限らない」
昨晩自宅に帰ると、武士が神妙な顔をして正座していた。
「不安になるものだ。自分はこれを良いと思わないのに、周りはこぞって称賛する。よもやおかしいのは自分ではないか……そう疑ってしまいたくなるもの。しかし、某はこうも思うのだ」
武士は、ゆっくりと顔を上げる。
「人は人、某は某」
それで何の話なんすか。
「ぬ、おかえり申したか大家殿」
ほいよ、ただいま。何について語ってたの?
「これだ。本日メシを作る気力が湧かんでな、店にて弁当を買ってきたのだが」
おおサンキュー。助かります。
「先んじて味見をしてな」
うん……いいよ。半分ぐらい減ってる気がするけどまあいいよ。
「蓋には『弁当大賞に輝きました』と書かれており、某大いに期待したのだ。さぞかし美味いものだろう、さぞかし支持を得たのだろうと。そう思い食してみたのだが……結果は、悲しきこと。食えども食えども某の舌は疑問を呈するばかりで、一つも喜ばなんだ」
それは残念だったな……。
好みの分かれるものってどうしてもあるからなぁ。嗜好品とか、文化ものとか、一定以上のレベルの食品なら特にそう。一番を決めたりするのって楽しいし、宣伝にもなるから一概に悪いとは言えないけど、多数決の一番と主観的な一番って完全には一致しないからね。
それでも、この弁当は確かに他の誰かの舌に響いたものなんだ。作った人ももちろんの事……決して否定しちゃいけない。わかってるな。
「うむ、大家殿。心得ておるぞ」
よし。
そんじゃ私も食べるとするか。美味しそうじゃん、いただきます!
「……」
……。
クソ不味いな。支持してる奴らみんな味覚地球外か。
「舌の根も乾かぬうちに大家殿!!!!」
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