上見れば虫

 現代人は、とかくに下を向きがちである。

 手のひらサイズの窓のようなスマホを覗き込み、自分に関係の無い世界の出来事に一喜一憂し怒っている。少しは顔を上げてみればいいのだ。

 そうすれば、そこには思いも寄らない世界が広がって――。


「虫ーーーーー!!!!」


 昨日夜、天井の隅に小さい虫共が密集していました。うわーーーー!!!!


「お、大家殿! あちらの天井の隅にも虫が湧いておるぞ! これはどういうことか!」


 うるせぇ! 知らん! ぼちぼち暑くなってきたから家にあった卵が一斉に孵ったんじゃないかぎゃあああ想像するだけで嫌!


「ぬ……! 大家殿、窓にやたらと虫の死骸があるぞ! ここから入ったのではないか!?」


 えー、でも網戸してるよ? うわほんとだいっぱい死んでる。


「穴でも開いておるのだろうか。ひとつ某が確かめてみ……」ガラッ


 あ。


「あ」


 ブイーン(外から虫達が遠慮なくIN)


「ぬおおおっあおおおおおおお!!!?」


 おおおおおおおおお!!!?


 即刻窓を閉めました。武士は後で締めときます。

 とにもかくにも、まずは部屋にいる大量の虫をなんとかしなければならない。こんな奴らと同じ屋根の下で寝られるほど、太い神経を持ち合わせてないからだ。


「某が一匹一匹成敗するか?」


 武士がぶんぶこ木刀を振り回して言う。悪くないが、流石にそれは骨の折れる話だろう。よってここは文明の利器を使うことにする。


 殺虫剤! 武士、用意!


「大家殿、無いぞ!」


 無いか! そういやこの間、使用期限切れてたから捨てた気がする! ヤベェ、ピンチじゃん!


「だがこれなら!」


 そ、それは……!

 網戸に直接かけるタイプの殺虫剤スプレー! 一度使えば三ヶ月ぐらい網戸に虫が来ないらしい、網戸用殺虫剤スプレーじゃないか!!


 最初からコイツで網戸にシューしてればこんなことにはァッ!!!!


「過ぎたことを悔やんでも仕方ない! 今はこやつを使って虫どもを退治するぞ!」


 そう言い放った武士の背中のなんと頼もしかったことか。

 ちなみに、一発シューするだけで虫はボタボタと落ちました。そりゃ向こう三ヶ月もつやつだもんな……。

 でも引き換えに私はしばらく鼻水が止まらなくなったので、皆さんは適切な撃退スプレーを買ってください。現場からは以上です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る