傘がない

 傘は無いけど、君に会いに行かなければならない。

 確か井上陽水の歌だったか。


「雨である」


 今朝は、雨が降っていた。雨の降った回の「武士がいる」は、そこはかとなくポエミーな雰囲気になったりするけどね。今回はそんなことないよ。

 私は、本日の買い物担当の武士に向かって言った。


 なぁ武士、傘買っといてくんない?


「傘? 大家殿は既に持っておるではないか」


 持ってるよ。持ってるけど、なんか穴あいてんだよ。


「ぬー?」


 武士は唸りながら、スタスタと玄関に行く。そして私の傘を取り出すと、バサッと開いて中を検めはじめた。

 口頭で信じろや。


「ぬー」


 首を横に振る。どこにも穴など開いていないと言いたいのだろう。

 や、開いてんだよ。ほんとだって。差して歩いてたらいきなり首の後ろに水滴落ちてくるんだって。


「ぬ」


 信じられないって顔してんな。よし、じゃあ今日は私の傘をお前に貸してやる。それ差して買い物行ってきな。


「ぬー」


 了承してもらえたようで何よりだ。

 つーか私との会話をサボろうとすんなよ。何言いたいか大体わかるからいいけど。







 で、帰宅。


「首の後ろに冷たき滴が落ちてきた」


 どことなくしょんぼりとした武士が、正座をして私に真新しい傘を差し出してきた。どうやら私と同じ目に遭って反省したらしい。ざまみろ。いや、どんまい。

 まあまあ、いいよ。っていうか結局どこに開いてたんだろうね、穴。次の雑ゴミの日っていつだったっけ……。

 さて、どんな傘を買ってきてくれたのだろう。私は早速その場で傘を開いてみた。


「実に愛い、でんきねずみの傘が売っておってな」


 まさかのピカチュウ!!!!!!!!!!!(耳付き)

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