少し先の未来

 嫌なことがあった。


 ので、一人酒を飲んでいたのだが。


「某も付き合うぞ」


 なんか、武士がカルピスサワー片手に隣に座ってきた。そんで勝手に私のカシューナッツをカリカリ食べ始めた。


「うまし!」


 カシューナッツ、江戸には無かったっけな。

 それからしばらく、武士としょうもない話をしながら酒を飲んでいた。具体的には、新しい靴が欲しいとか、プロテインの新商品を試したいとか、スーツ着て眼鏡つけて私と奇怪な事件を解決してみたいとか(ドラマの「相棒」見たなコイツ)。


「生きていたら、時に難敵も現れるものだ」


 武士は檸檬堂をがぶ飲みしながら言う。


「人は一人で生きておるのではないからな。嫌なこともあれば邪魔もされるし、思うがままの道を歩めぬこともある」


 うんうん。


「だからこそ、人は身の内にこそあれこれ持たねばならぬのだ。集めた金は奪われるやもしれぬし、アテにした人もいつか死ぬ。しかし、今までに得た記憶や知識、何かを愛する気持ちだけは、誰にも手を出しようがない」


 おお。


「そういうものを内に持つ者は、強いと思う。知識は良い。得る前と後では見る世界が変わる。そして世界が変われば、生きていける場所も変わる」


 うむうむ。


「……」


 ……。


「何の話だったかな」


 知らん。


「某、大家殿を慰めたかったのだがな。肝心の大家殿が悩みを吐こうともせんから、とりあえずそれっぽい持論を述べてみたのだ」


 そうだったのか。いきなりどうしたのかと思ったよ。でもありがとな。


「的当たりだったかどうかはわからんが……我ながらいいことを言ったと思う」


 そこ自分で言っちゃうんだ。すげぇ。


「そうだ、ぼちぼち近所の公園の桜が咲きそうだぞ。ぜひ今度の休みに見に行こう」


 そうね。


「それまでに一番良い花見の場所を見つけておくぞ!」


 おうおう、ありがとう。

 お前はあれだね、ちょっと先の未来に楽しみを見つける天才だね。


「ぬぬ? 急に耳が遠くなった。わんもあ」


 嘘つけや。もっかい褒めてもらおうとすんな。

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