制約
「大家殿は、某が住むにあたりセイヤクを設けないのだな」
ある日、味噌汁を飲みながら武士はそう言った。……セイヤク? 誓約? 製薬?
あ、制約か。
何の話?
「いや何、某は時々思うのだ。もし大家殿ではなく、他の者の家に降り立っていたならどうなっていただろうと」
ふんふん。
「すぐに追い出されてたやもしれん。よしんば置いてもらえても、働くなり、家事なりを要求されていただろう。いや、某もそれに文句があるわけではないのだ。ただ、『住まわせてやっているのだからアレをしろ、コレをするな』と常々言われていたら、きっと窮屈だったろうと思うてな」
……。
「しかし、大家殿は何故かそれをしなかった。それどころか何も言わずに寝食の場所を与えてくれ、某が毎日ブラブラするのを許してくれた」
……別にただブラブラしてるわけじゃないだろ。
買い物とか行ってくれんじゃん。洗濯物もしてくれんじゃん。掃除もお前、ドラッグストアで激落ちくんシリーズ買ってきてニッコニコやってくれてんじゃん。
ご飯も炊いてくれるし、皿洗いもしてくれるし。
ピザのチラシとか取っておいて、私が体力的にきつい時はドヤ顔で出してくるし。
そのまんまでいいよ。変に気にしなくても、お前は十分役に立ってる。
「……」
何。
「そういう言葉がスラスラと出てくる大家殿は、実に稀有な者であると思うのだ」
いや、だってお前戸籍無いから働けねぇし……。
よしんば働けても、怪我したら保険証とか無いから大変だし……。
かといって現代日本で生まれてるわけじゃないから、戸籍作れるか疑問だし……。つーか作ってる間に江戸帰りしそうだし……。
「それでも、金など稼ごうと思えばいくらでも方法があるではないか。ぼてふりとか、ゆーちゅーばーとか」
んでも、あんまり稼がれると今度は税金的な面で問題が出てくるんだよな。あと働くなら届け出もいるし。そうなるとやっぱ私が大変になってくる。
「……そう、なのか?」
うん。
「……ぬぬう、日本という国は過ごしにくくなったなぁ……」
江戸時代と比べて人が増えたからね。
やっぱ増えれば増えるほど問題が起きやすいし、それに伴って約束事も作られるもんだ。
「それもそうか」
うん。
「……ところで、何の話だっけか」
今日から居候である我が身を慮り、毎回ご飯のおかわり三杯はする所を二杯までに収めるって話だよ。
「ぬ、ならば一杯一杯天井に米粒が届くほど盛らねばならぬな」
お前私が制約設けた所で絶対たくましく生きてくだろ。制約の穴を突こうとするな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます