スーパーボール掬い

 梅雨。

 それはじとじとじめじめした、雨の季節。


 加えて不要不急の外出を控える今、まあ家にいることを余儀なくされるのであるが……。


「退屈である」


 クッションに顔を埋めた武士がそうブー垂れた。ここから見るとまるでクッションからちょんまげが生えているようである。おもしろ。


「大家殿ー」


 んな事言われても私はドラえもんじゃねぇんだよ。何でもかんでも頼るな。


「ぬぅ」


 ……でも、そうか。そうだよな。

 武士も退屈になるくらいなのだ、私も退屈なのである。

 そんなわけで、何か無かったかなーと押し入れに頭を突っ込んだ。


 その数分後。


「……大家殿、なんだこれは」


 これ?

 スーパーボールです。


「すーぱー……?」


 うん。といってもお店のスーパーじゃなくてね。

 壁にぶつけたらこう、ぽいんぽいん跳ね返ってくる……。


「おお! よく跳ねるであるな!」


 そうそう。

 とはいえここは貸家。貸家の壁にぶつけるのは良くない。


「ならばどう遊ぶのだ?」


 風呂行こう武士。

 んで浴槽にこう、水を貯めてだな……。


「ほうほう」


 私の持ってるスーパーボールをありったけ投入する。


「何故こんなに持っておるのだ?」


 で、昔とち狂って買った金魚のミニチュア(百個)も投入する。


「何故持っておるのだ?」


 からのー……針金をこうして曲げて輪っかを作って、これに……うーん、ティッシュを張る。


「おお! 金魚すくいか!」


 そうそう。スーパーボール掬い的な? 縁日でもよく見るよね。


 ……ほい、できた。やってみろ武士。


「行くぞ! ……んぬぬぬぬぬ、ほい!!!!」


 おー破れた破れた。

 んじゃ私もちょっとやってみっか。


「おお、取れたな!」


 次。よいしょ。


「また取れた!」


 よいしょ。


「かようなぴんぽんまで!?」


 よいしょー。


「おおおお! 次々に掬えておる! 大家殿は天才であるな!!」


 ん、私のはティッシュじゃなくてキッチンペーパー張ってるからね。

 はい武士にも貸してやる。


「ぬぅ、ズルではないか!」


 うるせぇ私がルールだ。

 まぁ頑張れ。うまく掬えたらスーパーボール一個やるよ。


「だから何故こんなに持っておるのだ?」


 そんなこんなで、私と武士は束の間の暇つぶしに興じた。

 武士はピカチュウが入っている透明なスーパーボールを気に入ったらしい。時々覗いて幸せそうに笑っている。

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