鬱展開

 よくあるストーリーの王道鬱展開の一つに、“実はこの世界は全部主人公の見ている幻覚や夢でした”というものがある。

 個人的には面白ければ何でもありだし、むしろ好きな方だ。けれどこれは、うまく展開しないと一気に興醒めしてしまう諸刃の剣だとも思う。


 では、この武士についてはどうか。


 実は武士など存在せず、一サラリーマンである私が過度なストレスにより見ている幻覚だった――とか。



 ……最近の幻覚は、しっかり三食食べるんだなぁ。



「幻覚だと? 某がか?」


 あまりにも退屈だったので、武士に問いかけてみた。

 歯牙にも掛けられないだろうと思ったが、腕組みをして考え込んでいる。案外ノッてくれているようだ。


「……某からすると、大家殿自身が面妖な幻にあたるのだがな」


 まあ、そりゃそうだよね。


「しかし、そうだとすると一つ解せんことがある。某が心の安定の為に幻を見るとするならば、きっと女子の夢を見るだろうからだ」


 それなんだよ。


 私だってむさ苦しい武士よりは、清楚でお茶目で前髪パッツンの黒髪女子を召喚したい。

 何なら今もそうしたい。

 幻覚を見れば見るほどポイントがたまって、100ポイントで女の子に交換! みたいな制度は無いのかな。それなら武士とゴリゴリに削れる生活費を我慢できるんだけど。


「おお、大家殿はそのような女子が好みなのだな」


 ん、好み……? そうかな……。

 最近読んだ漫画でそんな子が出てきたってだけだけど。


「よし、ちょっと某がやってやろう」


 やらんでいいやらんでいい。何が「よし」だよ、何も良くねぇよ。

 汚すな、私の理想を。


「何と言ったか……? 髪がぱっつんと言うたか。それは問題無いとして……」


 あるわ。ありまくるわ。月代をパッツンに数えんな。全パッツン好きに土下座で謝れ。


「清楚……も据え置きで良いな。しかしお茶目か。これが難しい。某は真面目一本だからな」


 結構図々しい自己分析するんだな、お前。

 お茶目こそ据え置きでいいよ。何が真面目……いや、違うか。お茶目とかじゃ許されねぇぞ、お前のウザさ。


「そして黒髪女子! おお、条件を並べてみるとなかなか満たしておるではないか! 後の問題は性別だけだな!」


 一番でっけぇ問題じゃねぇか!


 むしろ大前提だよ!!


 やっぱあれだな、タイムスリップはポイント制導入すべきだな。ノーマルアバターが武士とか攻め過ぎだけど。何ならもうポイントとかいらないから、武士をお返ししたい所存だけど。


 帰ってよぉー。


 そうして、今日も夜は更けていく。

 目が覚めても、どうせ武士はいつもと変わらず床で寝ているのである。

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