いい夫婦の日

 11月22日。


 いい夫婦の日ですってよ、奥さん。


 うん。


 私にはハロウィン以上に関係のない日である。


 つまり、今日も変わらず、起きて会社行って適当にやり過ごして帰って飯食って寝るだけの一日である。

 実際そうなるに違いないと思っていたのだが……。


「最近彼女ができたんですって?」


 会社でパートのおばちゃんに話しかけられ、硬直した。

 返事をしない私の反応を肯定と捉えた彼女は、手振り付きで嬉々として続ける。


「やっぱり!? 最近シャツのシワも伸びてるし、お弁当作ってきてるし、できるだけ定時で帰ろうとしてるじゃない! ぜーったいいい人ができたと思ってたのよー!」


 ……シャツのシワが伸びてるのは、通販で“ハンガーにかけたまま使えるアイロン”を買ったからで、

 お弁当作ってきてるのは武士の昼飯を作るついでで、

 できるだけ定時で帰ろうとしてるのは前からです。


 いや武士の功績が何一つねぇな?


 こういう時って普通、「ほんとだ……シャツのシワが伸びてる。アイツ、私の知らない所で……!」ってなるもんじゃないのか。日常に溶け込んでいた当たり前の幸せに気づくアレじゃないのか。

 今私の中に湧いてるの、架空の彼女がいると勘違いされたことによる面倒くささへの怒りだぞ。マジでそれ以外の感情が死んでる。


 とりあえず、彼女はいないです。


 むしろいい子がいたら紹介してください。


 結構ガチめに頭を下げて、会社を後にした。




 で、帰宅。


「よくぞ無事に帰ったな、大家殿! ところで、今日は何の日か知っていたか?」


 ドアを開けると、武士がなんかテンション高めに寄ってきた。


 ……。


 えーと、何の日かね?


 尋ねると、武士はニヤッとしてとある場所を指差した。

 そこには、大量の空き缶。



「缶ゴミの日だ」



 出し忘れたんかお前えええええええ!!!!


 だから! ゴミ捨ては! お前の担当だっつってんだろ!!


 缶ゴミの日って月に二回しかねぇんだぞバァァァァァァカ!!




 いい夫婦の日? 知らねぇな。


 今日は缶ゴミの日です。

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