カメムシ

 おはようございます。今日も元気に渋々仕事に参りましょうねぇ。

 そう思いながら、ワイシャツに袖を通した時だった。


 ――ガサリ、と。


 ガサリ、と何かが指先に接触したのだ。


 そこからの私は素早かった。ワイシャツを脱ぎ、その場で思い切りバサバサと振るう。


 そうすると、コロンと緑色の何かが床に転がった。


 カメムシである。


「何事だ大家殿」


 私の悲鳴に迷惑そうな顔をした武士が出てきた。

 

 お前っ、お前ぇ……!

 この季節になったら洗濯物は死ぬほどバサバサしてからしまえって、あっれほど言ったのに……!!


「したぞ。したが、ついていたのだ」


 バサバサした後は腕突っ込んで調べようぜ!


「面倒である」


 ぬあああああああ!!



 カメムシが死ぬほど嫌いなのである。



 蚊と同じレベルかもしれない。世界一高いバンジージャンプ(中国マカオタワー233メートル)とカメムシ百匹が入った部屋に三十分入れられるの、どちらか選べと言われたらバンジー即答するレベルで無理なのである。 


 そう訴えると、武士は腕を組んで頷いた。


「ここの所、とみに寒くなってきたからなぁ。カメムシ殿も冬を越える場所を探しているのだろう」


 はー?

 どうしてうちをそんな都合のいいワンシーズンマンションにしようとしてるんですかねー?

 ふざけるなよー?

 面の皮どんだけ厚いの? 蚊にしてもそうなんだけどさ、リターン無いじゃん。与えてばかりじゃん。与えるだけでこちらが消耗する関係なんだよ。なんだこれ爛れた男女関係か。


「ハハ、カメムシ如きで大袈裟な」


 お前もカメムシと一緒に寒空の下に放り出してやろうか。


 ひとまず、網戸に虫コナーズを窓という窓に吹き掛けておいた。その際に武士が流れ煙を吸い激しく咳き込んでいたので、もしかしたらこれ武士もコナーズしてくれるのかもしれない。

 頑張れコナーズ。お前にうちの家計はかかってる。

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