この世界では俺の能力が封印されている!
おと
第1話 白い天井と発動しない魔術
ここは……何処だ?
見覚えのない白い天井。俺を見下ろす人物が3人。いずれも見知らぬ顔だ。
そうだ。確か俺は、暴走貨物ゴーレムに衝突したんだった。これまでの冒険の記憶が走馬灯のように走った事を記憶している。
はっと身を起こす。俺の身体には白いシーツがかけられていた。
いつの間にやら衣服も着替えさせられているようだ。
痛っ。
身体のあちこちに激痛が走る。胸、背中、腰、足など、各部が軋みを上げる。記憶が有る。これは打撲による骨折や体組織の破損による痛みだ。
「あ、お目覚めのようですね。ああ、まだ起きないほうが良いですよ」
白い衣服に身を包んだ優しげな瞳の女性が、穏やかな声で俺に言葉を投げかけた。
起き上がろうとする俺を改めて横になるように促しつつ、身体にかかっていたシーツを俺にかけ直す。
彼女の不思議な帽子のようなものの脇からつややかな黒髪がひと房ふた房こぼれ、その白い頬の前で揺れる。同時に良い匂いが鼻孔をくすぐる。
「あの……えっと、多分ひき、轢き逃げだと思うんです。ど、道路でいきなり倒れていて、驚きましたよ。……あ、ぼ、僕、松嶋翔太(まつしましょうた)って言います。ショウって呼んでください」
ショウと名乗った青年……いや、少年と言った方が良いかもしれない。10代中ば程度と思われるこれまた黒髪の男が、おずおずと、でも柔らかい表情で俺に声をかけてきた。
続けて、少年の隣に居る同じ位の年齢の少女がまくしたてる。
「そうだよお兄ちゃん、このショウさんが救急車を呼んでくれたから良かったけど、すっごくビックリしたんだからね!珍しく外出したかと思えばこんな……こんな……でも、でも良かったああああっ!」
む、う……?
轢き逃げ?いや、こんな所で休んでは居られない。魔王の居城までようやく来たんだ。パーティのメンバーはどうしているんだ?俺の攻撃魔法・補助魔法無しで魔王に挑んだりはしていないと思うが……
逡巡していると、先程の白衣の女性が俺に声をかけてきた。
「あなたね、頭部を打たなかったのは幸運ですよ。全身打撲・各部骨折で全治3か月。暫くはリハビリも必要みたい。それよりまずは、住所・氏名・年齢・職業・血液型、言えますか?」
俺はグラーリア王国の魔王討伐隊のアーネストだ。これでも少しは名の知れた魔術師で、勇者と名高いホーナーと同じパーティで長年苦楽を共にした仲間だ。
血液型というのはわからないが、素直に住所・氏名の上に職業”魔術師”と告げた。
尋ねられたままに答えた所、女性は目を丸くし、少年は噴き出して笑い出した。
「え……魔術師、ですか?」
「ぷぷっ。……いやその、魔術師って、あれ本気のコスプレだったんですか。いや、今はそういうのいいから、魔術なんて冗談言ってないで真面目に答えた方が良いですよー」
少年に続いて、少女も呆れた風に言う。
「お兄ちゃん、そういうの、やめなよー。頭打ってゲームと現実がごっちゃになっちゃった?それとも異世界転生モノの変なアニメの見過ぎで、あっちに逃避し続けたくなっちゃった?」
よくわからない言葉も有ったが、正しく理解されていない、という事だけはわかる。
いやまてよ。なるほど理解できた。もしかしたらこの3人は魔術をよく知らない辺境の者か。よく見てみれば、3人とも見たことのない衣装ではないか。
ならば実際に魔法を見て貰った方が早いな。
俺は意識を集中し、右手の人差し指と中指を立てて空中にスッスッと図形を描き……
あれ?描けない?
スススッスッ……
手慣れた仕草で空中に簡単な魔方陣を描く所作を行うが、いつものように指先の軌跡が空中に残らない。
意識を集中して、身体各部に漲るMP(マジック・ポイント)を確認する。
問題ない、満タンだ。MP切れではない。なのに、指先が光らない。指を動かした後にマナ(自然界に存在する魔力)の光紋が発生しない。
これは……ああ、あれか。
以前ホーナー達と一緒に冒険をしていた時に、魔力封印の結界を使われた時と一緒だ。マナが一切存在していない状態だ。
白衣の女性が軽く首を傾げつつ、微笑みをたたえて少しおどけた様子で言う。
「魔法とか、有ったら良いですね。あ、でも、治療する魔法なんて有ったら私はお仕事なくなっちゃいますね。そしたら治療の魔法を私に教えてくださいね、満身創痍の魔法使いさん。……あ、私はここの看護師で”吉野真由香”です。宜しくお願いしますね」
「有ったら良いですね、って……」
もう一度マナを感じようとしてみるが、無い。本当にない。
マナが無いなら、いくらMPがたっぷり有っても、一切魔術は発現しない。
「な……無い、のか……?」
ショウと名乗った少年と、俺を兄と呼ぶ少女、そして真由香と名乗った白衣の女性は一瞬互いに向き合い、そして俺の方に向き直って、3人同時に首を縦に振った。
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