第4話 胸弾ませて

 ルークさんに連れられてやって来たのは、生徒指導室だった。

 ここに来るのは、入学試験での騒動があったあの日以来だ。その時には私とウィリアムさん、そしてクラスメイトのロビンさんの三人でアレク先生に集められていた。


「オレ、しょっちゅう寝坊したり居眠りしちゃうせいで、アレク先生によくここに引っ張り込まれてるんだよねー」


 ……リアンさんも初めてではなかったらしい。

 殺風景な部屋なのは相変わらず。シンプルに長机を椅子が置かれた空間で、ヘンリー先生が私達を待っていた。


「皆さん、お待ちしていましたよ。少し時間が押しています。まずは座って話しましょう」


 これぞ草食系男子という雰囲気を纏ったヘンリー先生の言葉に従って、早速各々が自由な位置に着席する。

 緊急の呼び出しという事だったけれど、一体何の話なのでしょう。特に心当たりもありませんし、全く見当が付きませんわね。


「えっと、一年生のレティシアさんとリアンさん。俺の事、覚えてもらえてますか……?」

「ええ。ヘンリー・ジョーンズ先生ですわよね? 先日、チーム制の魔物討伐授業の説明で、前に出てお話されていましたから」

「あー、そういえば見覚えがある!」

「俺のような印象の薄い男を、ぼんやりとでも覚えていてくれて良かったですよ。レティシアさんの記憶力については、アレク先生が模範生だと褒めていただけあって、流石の一言に尽きますね」


 あら、アレク先生が私をお褒めになっていらしたの?

 まあ、学校は違えど二度目の学生生活なのですから当然ですけれど!


「ああ、それで本題なんですが……。俺は学校外から寄せられる依頼を纏めて、その内容に対して適切であろう生徒のグループにこなしてもらえるよう動く役割を担っています。今回は、ついさっき届いたばかりの生徒向けの依頼を皆さんにこなして頂きたく、こうして集まってもらったんです」

「へぇー、そうなの? それってボクらにピッタリの依頼って事だよね?」

「そうですね。成績上位者の中でチームとしてバランスが取れ、明日からの予定が詰まっていないであろう生徒をピックアップしました」

「成績上位者……まさか、こいつらがか?」


 そう言ってウォルグさんは、ルークさんとリアンさんに目を向ける。

 リアンさんは武術系の実技は確かに才能があるのだけれど、生活態度に問題がある。彼が先程述べていた通り、寝坊と居眠りが原因だ。

 そしてルークさんについてだけれど、彼の秘めたる魔力が上質である事は間違いない。きっと魔法のコントロールも上手いのだろう。

 けれど、彼もまた雰囲気からして生活態度が不安だった。

 この二人が含まれた四人組であるにも関わらず、ヘンリー先生は彼らの事も成績上位者だと言ってのけたのだろうか。いえ、実技だけなら確実に上位なのだろうけれど。

 すると、ウォルグさんの言葉にヘンリー先生が苦笑しつつ答える。


「ウォルグさんの仰る疑問はごもっともだと思います。ですが、今回のケースではそこは心配していません。先日の討伐授業には二人共しっかり参加していましたからね。そこを評価しての選抜となっています」

「やる時はやるんだよ、ボク達!」

「普段からちゃんとしていれば、アレク先生にも呼び出されないと思いますが……ああ、話が逸れましたね。では、皆さんに受けて頂く依頼はこちらになります」


 ヘンリー先生は持っていた書類入れの中から二枚の紙を取り出し、机に置いた。

 そこには『タルカーラ大森林での調査、及び定期討伐任務への同行』。

 もう一枚の紙には、『アルマティアナ近海での調査、及び討伐依頼』と書かれていた。

 タルカーラ大森林というと、ここから馬車で一週間は掛かる距離にある大きな森だ。自然に溢れているのは勿論、魔物の生息地としても有名で、こうして定期的な討伐が行われている。

 そしてアルマティアナといえば、高級リゾート地として有名な王国南方の港町だったはず。


「これらは王国騎士団から依頼されたもので、本来であれば彼らだけでこなされる業務です。ですがこの学校の卒業生の多くはギルドや騎士団に所属していますから、在学中から少しずつ現場に慣れさせていく為に、こうして生徒への依頼が届くんです」

「魔物の討伐も騎士団の仕事なの?」

「定期討伐は、どうしても手が回らない時はギルドに任せる事もありますが、通常は国かその地域の領主の騎士団が行なっていますね」


 どうやら私達は、成績上位者として他に何人かメンバーを誘い、特別課外授業をこなしてくる必要があるらしい。

 それならミーチャやケントさん達も誘って、依頼終わりにアルマティアナでバカンスを楽しむというのも……ええ、あり得ない話ではありませんわね。


「……ですが、タルカーラの森やアルマティアナまでは、移動に随分時間が掛かってしまいますわ。その間の授業はどうしますの?」


 ふと浮かんだ疑問をぶつければ、ヘンリー先生は良い笑顔で答えて下さった。


「その点はそこまで心配しなくても良いですよ。皆さんが調査に同行するのは、夏季休暇を予定していますからね」


 どうやらこれは、私達だけに与えられた特別な夏休みの宿題だったようですわね。

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