第12話 湯上り転倒事件―あわてて足を滑らせて転んだ!

Hビデオを見過ぎたために私は気持ちが大胆になってきていたのかもしれない。私はパパを挑発してみたくなっていた。


パパが私に関心のあることはよく分かっている。私を見ないような振りをしているけど、いつも私のことをじっと見ている。時々、パパの方を見るとあわてて視線を逸らすことが多い。あれは私を見守っている父親代わりの目ではない。明らかに男の目だ。それは直感的に分かる。


でもじっと見ているだけで、私に決して触れたりはしてこない。私の部屋にも絶対に入ってこない。一歩近づくと一歩離れて一定の距離を保つタイプだ。きっと我慢しているのだと思う。だから試してみたくなった。


今まではお風呂に入ったら、浴室でパジャマに着替えてから部屋に戻っていた。でも最近はパパがリビングにいないことが分かると、バスタオルを身体に巻いたまま、部屋に戻っていた。


昨日、パパが自分の部屋にいることが分かったから、バスタオルを身体に巻いたまま、部屋に戻ろうとした。その時、パパが部屋から急に出てきて鉢合わせした。一瞬二人とも固まった。


パパは目のやり場がない振りをして、しっかり見ていたので、私は「見ないで!」と言ってすぐに部屋に入った。さすがパパ、一瞬を無駄にしない。しっかり見ていた。


見たいのなら見せてあげようと思って、次の日からパパがリビングにいても、堂々とバスタオルを巻いたままで、部屋に戻ることにした。


パパとしては目のやり場がないとは言いながら、黙ってしっかり見ているに違いない。これは間違いない。そこで突然振り向いた。やっぱりじっと見ていた。慌てて目を逸らす。でも手遅れ。


「見ないで!」


へへと勝ち誇ったように私は部屋に戻った。私ってそんなに色っぽい? 魅力的? 女を感じる? すぐにパパがドアをノックする。


「ごめんね、見ないようにするから」


「気を付けてください」


これに味を占めて、もう少しエスカレートしてみる気になった。部屋に戻るとき、ゆっくり後ろを振り向いてパパの視線を確かめる。パパはすぐに視線を逸らす。でも私が前を向くとすぐに視線を戻すことは分かっている。それで急にもう一度後ろを振り向く。やっぱ見ていた。


「見ないで!」


そう言うと、背中を向けてバスタオルを両手で開いた。後ろでパパが唖然としている様子が気配で分かった。私はバスタオルを両手で開いたまま、悠然と部屋に戻った。面白かった。


パパがすぐに部屋の前まで来てドアをノックして言った。


「あまり僕をからかわないでくれないか? 今度したら我慢できなくなって襲い掛かるかもしれないよ」


「見なきゃいいでしょう」


でも思った。ひょっとすると本音かもしれない。これ以上挑発したらパパの理性は持たないかもしれない。


それからしばらくの間は、私がお風呂に入ったら、パパは自分の部屋にいて、私がお風呂から上がって部屋に戻るまでは部屋から出てこなくなった。


それなら見るようなこともないし、挑発にも合わないと思ってのことだろう。そうすれば襲い掛かることもない。あれは本音だった?


◆ ◆ ◆

金曜日の晩、パパが好きなアクション映画がテレビ放映される。自分の部屋のテレビは中型で迫力がないから、アクション映画放映の時にはいつもリビングの大型テレビで見ている。私はアクション映画があまり好きではないので、お風呂に入った。


私はいつものようにお風呂からバスタオルを身体に巻いて出てきた。パパが私のことを気にも留めないで、テレビに夢中になっているのが気に入らなかった。そのまま冷蔵庫にペットボトルを取りに行った。パパの視線が私に向かったのが分かると、背中を向けてまた両手でバスタオルを開いた。


パパが「久恵ちゃん」と言ってソファーから立ち上がろうとするのが分かった。それが分かると私はあわてて部屋へ戻ろうとした。でも今回は手にペットボトルを持っていたのと、風呂上がりで足が濡れていた。滑ってバランスを崩して浴室の前の廊下で転んだ。太ももが、お尻が露わになる。


パパはソファーを立ち上がって私のところへ来ようとしている。いやだ。私はお尻を手で隠して廊下を這って部屋に向かう。濡れている足が滑る。


パパが「大丈夫?」というのと私が部屋に入ったのは同時だった。部屋の前まで来てもう一度「大丈夫?」と声をかける。私は内鍵をそっとかけた。パパは入ってこようとしなかった。ほっとした。


「お尻は大丈夫だけど、足を捻ったみたい」


「見てあげる」


「ちょっと待って」


パジャマを着てからドアを開いた。


「ほら、言わないことじゃない。僕をからかうからだ」


「パパが本当に襲い掛かってくると思ったから慌てた」


「冗談に決まっているだろう。信用がないな」


足首に触って動かした感じではそれほど重症でもなさそうだった。パパは湿布薬を持ってきて足首に巻いてくれた。歩くと少し痛いけど大丈夫だと思った。


私はそうなることを決心して、パパを挑発していた訳ではないことが分かった。その証拠に本気だと思って慌ててしまった。でもそうなることも期待して始めたことなのに、自分の気持ちがよく分からなくなった。


そのことをよくよく考えてみると、襲い掛かかられてパパのものになりたいというより、優しくされてパパのものになりたいのだと思った。


それから私は挑発を止めなかったが控えめにした。やっぱり見られてないと寂しいし、いつも私をじっと見ていてほしい。

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