第140話 あ、やっぱり?
モニカさんが待っていたのは表玄関ではなく、使用人用の勝手口の側にある休憩室だった。
全てを思い出したわけじゃないけれど、モニカさんがかつてルイーゼ――私に行った非道な行為についての内容は以前本人から告白されていたのでおおよそ把握している。その上でかなり心配なのだ。私の後ろにいる人物を見てモニカさんの心臓が止まってしまうのではないだろうかと……。
彼には応接室で待っていてほしいと懇願したのだけれど、どうしてもついていくと言って聞き入れてくれなかった。モニカさん、ごめんなさい……。
大きく溜息を吐いたあと、休憩室の扉をノックして中へと入る。部屋の中に入ると相変わらず可愛らしいモニカさんが椅子にも座らずに立ったまま待っていた。部屋に入ってきた私を見て、モニカさんがほっとしたように表情を緩ませる。
「モニカさん……」
「あっ、クリス、急に来ちゃってごめんなさい! 実はユリアさんが学園で……」
そこまで話したあとにモニカさんが大きく目を見開いた。視線は私の後方に固定されている。ああ、やっぱり……。
モニカさんは言葉を失ったように口をハクハクさせてそのまま固まってしまった。
「これはどういうことかな? クリス」
背後の人物からかけられた美声が耳をくすぐる。そしてはっきりとモニカさんにも聞こえただろう。静かで、けれど酷く威圧的な低い声が。
「あ、あの、その……」
説明しようにも思うように言葉が出てこない。心の準備ができないままモニカさんと背後にいる人物――アルフォンスさまを会わせてしまった。なんと説明しようか考えるにはあまりに時間が足りなかった。
けれど目の前にいるモニカさんにとっては心の準備どころの騒ぎではないだろう。
「あ、あ、ああっ、アルフォンスさまがなぜここにぃっ!?」
「……」
モニカさんに向かってニッコリと氷のように冷たい微笑を浮かべているアルフォンスさまと、声を上ずらせながらアルフォンスさまを指差すモニカさんを前にして、彼女の混乱はいかほどだろうと察してしばし目の前の現実から逃避するように天井を見上げてしまった。
「モニカさん、落ち着いて。殿下、まずは私に説明させてください」
「うん、そうだね。お願いしようかな」
氷の微笑を崩さないまま腕を組んで立つ殿下の側で、何から話そうかと頭をフル回転させて、頬に手を当てゆっくりと口を開く。
まずは……。
「モニカさん、実はね、さっきようやく思い出したのだけれど……」
私の言葉を聞いて、モニカさんがまるで氷漬けにされたようにぎこちなく首から上をこちらへ向ける。
「あのう……実は私、ルイーゼだったみたいなの……」
「え? えぇっ? ……えええええええぇっっっ!?」
モニカさんが体全体をギギィッとぎこちなく回転させてこちらへ向けるとともに、モニカさんの指先の向きが私へと変わった。
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