第37話 美少女リタ
放課後、クラブの開始時間にはずいぶん遅れてしまったが、ようやくカミラと一緒に調理室へと到着した。やはりすでに他の部員は活動を始めていたようだ。遅れたことを謝罪するために、カミラとともに顧問のリーグル先生のところへと向かう。そして頭を下げて遅れたことを謝罪する。
「リーグル先生、クラブ活動に遅れて申し訳ありません」
「……ええと、貴女はどちらのご令嬢かしら?」
先生の予想外の質問に驚き、思わず目を丸くしてしまう。先ほどカミラが言っていた仮面を被っているという言葉は、大袈裟でもなんでもなかったようだ。顔を完全に隠しているのなら、着ぐるみを着ているようなものじゃないだろうか。
ルイーゼは自分のケバい装いをコスプレ程度だと認識していたが、よもや着ぐるみレベルだとは思わなかった。そんな先生の質問にルイーゼはゆっくりと笑顔を浮かべ、カーテシーをしながら答える。
「クレーマン侯爵家のルイーゼですわ、先生」
「あ、あら。そうだったのね、ごめんなさい」
頬に片手を当て、先生はなるべく動揺を隠そうと平然を装い答えてくれた。だがどうやら先生はルイーゼ以上に驚いたようだ。今の先生の反応を見て、もはやもう何が起きても驚くまいと心に決める。先生への謝罪を済ませたあと班の皆の所へ向かう。そして合流したところで皆の予想通りの反応が返ってきた。皆の反応に対してはもはや驚きもしなかった。
「あの、どなたでしょうか?」
「……ルイーゼよ」
「ええっ!?」
着ぐるみに中の人なんていないのは夢の国の住人だけよねと、取り留めのない記憶に思いを馳せる。皆の予想通りの反応に嘆息し、今日の活動内容についてカミラに尋ねる。するとカミラが皆に告げる。
「今日は遅れてごめんなさい。まだ準備段階でよかったわ。今日のお菓子も自由課題よ。この間はルイーゼの提案だったけど、今日は他に誰か課題を提案したい人はないかしら?」
カミラがそう皆に尋ねると、班員のうちの一人の少女が手を挙げた。少女の名前はリタ・シリングス。プラチナブロンドの髪を後ろで一本の三つ編みに纏め、アイスブルーの瞳を持つ。かなりの美少女なのだがなぜか浮いた噂が全くない。美少女リタが早口に提案してくる。
「夏に美味しいお菓子はどうでしょうか」
「夏に美味しいお菓子?」
カミラが聞き返すと、リタが嬉しそうに話を続ける。
「ええ、バターを使った焼き菓子も美味しいのですけれど、口に入れたときにすっきりとするようなお菓子が食べたいのです。とはいえ、具体的なレシピを提案できるわけじゃないのですけれど」
そう言いながらリタがルイーゼとチラ見する。リタの視線は何か提案してくれという合図だろうか。リタの視線を受け、夏に美味しく感じられるひんやり系のお菓子を記憶の中から拾い出してみる。
日本のレシピでいうと、かき氷、アイスクリーム、ゼリーなんかが思い当たるのだけれど、どれも冷蔵庫や冷凍庫がないと厳しいものばかりだ。冷やすための魔道具はギルベルトと製作の計画を進めてはいるけれど、まだ発案段階で実用化はまだ先だ。ゼリーは良さそうだけどやはり冷やす何かがないと固まらないだろうし、ゼラチンが存在するかどうかからして怪しい。ゼラチンを使わない近い食感のお菓子というと……。
「プリン……」
「「プリン?」」
なんとなく呟いてしまったルイーゼの言葉に、リタとカミラの声が重なる。二人の反応から察するにプリンという言葉すら聞いたことがなさそうだ。ルイーゼも確かに今世では見たことがない。日本では普段はカップの底に穴を開けて取り出すタイプのゼラチンで作られた既製品のプリンを食べていた。なぜならコンビニで手軽に買えていたからだ。
コンビニのゼラチンのプリンも美味しいのだけれど、ルイーゼは蒸し焼きのカスタードプリンが好きだった。蒸し焼きのカスタードプリンは優しい味がする。そう考えて皆にカスタードプリンを提案をしてみることにした。
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