第27話 打ち合わせ (オスカー視点)


 十八時ごろ、オスカーはアルフォンスを連れて学園から屋敷へと帰ってきた。今の時間ならルイーゼも帰ってきているはずだ。そしてアルフォンスを屋敷のサロンへ案内した。アルフォンスに紅茶を振るまうよう侍女に指示をする。

 アルフォンスがサロンのテーブルの席に着いて紅茶のカップを口に運ぶのを確認してから、着替えてくるので待っていてくれと頼んだ。すると案外素直に頷いてくれた。絶対疑われていると思ったのだが。




 二階へ上がって用心深く周囲を見渡し、アルフォンスがいないことを確認した上でルイーゼの私室の扉をノックする。そして了承を貰い扉を開けて中へ入る。どうやらルイーゼは机で試験勉強していた最中だったようだ。なんだか申し訳なかった。ルイーゼは椅子に座ったままこちらへ振り返りオスカーの言葉を待っている。


 ルイーゼは既に入浴を済ませ、ゆったりとしたワンピースを纏っていた。髪は巻いておらず顔も素顔だ。そして未だに手首には包帯が巻かれたままだ。見るからに痛々しい。素顔でなおかつ包帯を付けたままの状態でアルフォンスの前に出ることを、きっと断固拒否するだろう。ルイーゼが驚くだろうなぁと予想すると申しわけなくて溜息が出るが、深呼吸をしてゆっくりと打ち明ける。


「姉上、落ち着いて聞いてくださいね?」

「何? どうしたの?」


 ルイーゼがきょとんと首を傾げ、話の続きを待つ。


「殿下が我が家へ来訪されています。今サロンでおもてなしさせていただいてます」

「へ?」


 やはり俄かには信じ難いようで、ルイーゼが驚いたように目を丸くする。だがやはり恋心があるのだろう。驚きつつもその頬が仄かに赤く染まりだす。


「以前話しましたよね。殿下にクッキーを渡してしまったこと」

「え、ええ」


 オスカーの言葉を待つルイーゼは少し蒼褪め、膝の上でスカートをぎゅっと握る。かなり緊張しているように見える。


「あのとき殿下には屋敷の料理人が作ったとごまかしたんですが、今日殿下はクッキーを作ってもらいにいらっしゃったんです」

「ええっ!?」

「それでお願いがあるのですが……」

「分かってるわ。サロンだったら調理場へ行くのに殿下の目につかずに行けるから大丈夫だと思う。私は今この格好だし、その、包帯もしてるし……」


 ルイーゼが言葉を詰まらせる。頼みたいことを察してもらえて助かった。そして、やはりルイーゼはアルフォンスに姿を見られたくないようだ。

 それにしても今日は昨日よりもさらに包帯が厳重になっている気がするが気のせいだろうか。ルイーゼの怪我の状態を疑問に思いつつも話を続ける。


「お手間を取らせてすみません。何とか断ろうとしたのですが、やんわりと押し切られまして」

「こっちこそ気を遣わせてごめんなさい。私がクッキーを作っている間、殿下をよろしくね」

「分かりました。それでは僕は自分の部屋へ戻って私服に着替え、サロンへ戻ります。クッキーができたら侍女に持たせてください」

「ええ、分かったわ。それじゃまたあとで」


 オスカーの要望を一通り伝えると、ルイーゼは不安そうな表情を浮かべながらも了承してくれた。そして早速立ち上がり準備を始めるようだ。本当はアルフォンスに会いたいのだろうと思う。婚約者に選ばれたくないがために、懸命に嫌われる努力をしている姿を見ると、さぞかしつらいだろうと想像する。だからこそ婚約者を早く別の令嬢に決めてあげなければと思う。

 ルイーゼとの打ち合わせが一通り終わったので、着替えるべく部屋を出て自室へと向かった。




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