一口ホラー体験談

くろかーたー

捲れたカーペットの下








 皆さんお世話様です、ようこそ。

ここでは、私自身が体験した奇妙な出来事をお話させて頂きます。


 断っておきますが私は頭が弱く、作り話が出来るほどの知恵は持ち合わせておりません。

 ありのままをお話いたします。



 信じて聞いてくれると嬉しい限りです。



 ┈┈┈┈┈┈┈┈



 私が子供の時、確か5歳の時か。

母方の、祖父母の家へ遊びに行った時のこと。


 言うなればド田舎の場所だ。

街からはかなり離れている。現在、街名は合併されてしまった。それでも静かな環境におかれた場所。


 周囲は地平線の向こうまで畑が広がり、何故か近くには納骨堂がある。バスすら走らず、せめて自転車がないと不便極まりない場所。

 

 だが植物や生物があふれており、幼少の時から生き物が大好きだったのでむしろ楽しみであった。私は兄弟がおらず、勝手にちょろちょろ遊んでいた。



 だが怖いと思っているものが2つあった。



 "汲み取り式のトイレ" と

  "祖父母の寝室" 。


 当時、田舎の便所は殆どが汲み取り式。

祖父母宅の便所は洋式で座ることは可能だったが、大き目の深い穴と暗黒が広がっていた。


 もちろん落ちればただ事ではないが、用を足すのも恐怖でしかなかった。


 一方で寝室は襖扉の先、斜め右前方に大きな仏壇が見える。

 角度によっては、先祖の遺影が隙間から見える。顔半分だけ丁度よく見え、覗かれているようで何とも不気味だった・・・。


 あろう事かこの私、その仏壇のお供え物 "らくがん" をつまみ食いをしていた。罰当たり極まりない。後でごめんなさいはしているが・・・。



 らくがんとは、詰まるところ砂糖の塊。

固すぎて歯が欠けるので、水で解して食べる。



 失礼・・・今は3つだ、怖いもの。



 その寝室の出入り口に敷かれている


  ┈┈"カーペット"。



 古ぼけた、 "怪物くん" が描かれている。

今の世代には分からないかもしれないが、ドラえもんと同作者のキャラクターである。



 さてこの時の私は、庭の野イチゴを相変わらずつまみ食いしていた。・・・だが。



 (あっ..痛!? お腹っ.....)


 ・・・腹を壊したようだ。

冷や汗かきつつ例のボットンで用を足す。



──ボチャン... 

  ──ドチャン....

  (あっ...ふーぅ・・・)



 壁の上に小窓があり、光が差してくる。

だけどやはり入るたび穴が怖くて仕方ない。

当時ハムスターを飼っており、もし間違えて下に落としてしまったら・・・なんて考えたことがある。今考えても恐ろしい。


 独特の異臭はするし、穴から何か這い出て引きずりこまれるんじゃないかと妄想する始末。

 なるべく天井を見つつ気張る・・・。



 ・・・

 ・・・・・・はぁぅ....♪


 何事もなく済ませ、開放感からこのクソガキが向かう先。

 仏壇へ "らくがん" をせびり込む考えだ。


 本当は、左手にある寝室への扉を開ければすぐたどり着く。だが何故かその道が怖く、普段から遠回りをしていた。



 廊下を出て居間を通り、仏壇のある部屋に到着し、らくがんを獲得。

 この部屋は、左手後ろに祖父母の寝室があり、襖のようになっている。


 寝室は出入り口が二つ、1つは仏壇部屋側。

もう一つは・・・抜けると便所がある廊下へと通じている。先のカーペットは、その廊下側の出入り口に敷いてある。


 何気なく、寝室へと目を移す。



   (──・・・ん?)



 何だ、変なのが見えた気がする。



 何故かカーペットが、山折りに捲れていた。

けども、問題はその中。その捲れた中へ黒くて小さい物が高速で潜ったのだ。

 ・・・吸い込まれるように。



 (エンマコオロギさんかなぁ..?)


 こう思ったが、実際コオロギほどの大きさはしていなかった。ゴキブリは現れない地域。


 少し近づいて確認しようと思った。

   が、



 ──ゾゾゾッ......(うぅっ!!?)


  急に怖くなった。



 あの雰囲気に似ていると思ったのだ。

 便所のあの感覚 捲れた下は暗黒。

 カーペットの下に穴があるかも って。


 なので、離れた位置から凝視をする。

好奇心が勝ってしまい、ついその場に張りつく。



  じーっと様子を見て、

 あることに気づいてしまった。



 ──何かが僕をソコから見ている。



 捲れたカーペットの下。

暗がりで鼻から上の顔半分が床から出て僕をみている。


 

 怖いが逃げようと思わなかった。

いや、思えなかった。不可解な状況だからこそ判断に行き着けないのだ。

 野良猫が入ったのかと思っていた。



 不意に・・・



  ──カンッ!



 仏壇横の窓ガラスから、小石をぶつけた様な短く鋭い音がなった。その瞬間、私の中で何かが千切れた。


  ──ダダダッ!!


 (はぁはぁ、おかしゃん..どこ?)


 畑にいる母の元へ走る。見つけた!



「なーにどうしたの、どこ行ってたのまた」


 この時の気持ちは、よく分からない。

ただ、なにか安心できるものにくっ付かないと引きずり込まれる気がしたのは今も覚えている。


 不安と安心の中、母の脚にしがみついたままお漏らしをしたことを今も覚えている・・・。


 ─

 ──

 

 あれから、納骨堂にいる住職の方にこのことを説明した。

 実際に祖父母の部屋を見てもらったが、私を覗き見ていたソレは、特に悪霊とかの類ではないらしい。


 むしろ見守っている存在。

窓の音を立てたのは、母の兄弟だと聞いた。つまり私の叔父、叔母か。こちらも同様に悪霊ではないとのこと。


 どういうことかと言うと・・・


 昔は出産環境が整っておらず、産まれて間もなく亡くなってしまう赤子もいたとか・・・。


 妬まず見守り続けるその姿勢には畏敬の念を示さずいられない。



 ただ、子供(私)のいたずらに対し、ちょっとしたお叱りを入れたくて驚かしてきたとのこと。


 その後、ごめんなさいごめんなさいをした。

それからは、トイレで恐怖を感じることはあっても不可解な存在は見なくなった。



 ただ、私はこれを機に一人部屋で眠ることがしばらくできなくなった。


 あれから20年以上経つ。

祖父は亡くなり、祖母はホームに居るのでもう祖父母宅は、母と叔父が管理をしている。


 私は、未だにあのカーペットを跨げない。

 トイレのような穴がある気がして。


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