第20話 波乱万丈!?お城訪問・前編
咲き誇るバラに囲われた華やかな中庭、後ろにそびえ立つ白亜の城と清々しい青空……!
あぁ、ゲームのオープニングで目に焼き付けて、夢にまで見たオンソレイエ王城に!私は今!!現実として訪れて……
「きゃうっ!」
「こら!前を見ないから転っ……」
「あらよっと!あれ、シャーロット様、今何かおっしゃいました?」
段差にけつまずいたので転ばないように勢いのままクルッと宙返りしてから振り向くと、シャーロット様は眉間を押さえながら『何でもありませんわ』と呟いた。
「どんな運動神経してんだ、心配して損した……」
ゲームファンにも脇役の服なのに凝ってて可愛いと評判だったメイド服を着た侍女さんに案内され、これまた美味しそうなお菓子が並ぶ席へと通される。
「わぁ!美味しそう!あれ?カップが4つ……?」
指を指してもう一度数を確かめてみる。確かに、テーブルに用意されたティーカップは4つ。お菓子も四人前。
でも今日ここに来るのは私とシャーロット様と、あとから来るって言うルイス様だけの筈で……あれれ??
「一応本日の席はライアン殿下からのご招待と言う形で用意して頂きましたから、当然お顔を出さるでしょう。その為の席の配置ですわね」
なるほど、そうだよね。いくら公爵家でも王宮を単なる私用では借りれないか。とは言えこんな急に、しかもかなり良い場所とお茶菓子を用意してくれるなんて、前々から感じてたけどライアン王子、シャーロット様に甘くない?演劇の練習の時もほぼ毎回見に来てたし。
「それはさて置き、貴女は年越しの夜会にも不参加でしたから王宮を訪れるのは初めてでしょう。基本的なルールや立ち入りの可否について説明しますからこちらへいらっしゃいな」
「はい、ありがとうございます!」
オンソレイエ王国では、毎年大晦日に年越しの盛大なパーティーがある。王都に暮らす貴族皆に招待状が届き幅広い地位と年代の人が集まる、多分国内1盛大な夜会。ゲームのエンディングでヒロインが攻略対象に告白され、シャーロット様が身を引くのもこのパーティーだった。
(だから念の為去年は『まだ作法に自信がないので』って理由つけて出なかったんだよねー)
ほら、エンディング前にその場に出向いちゃって変なバグとか起きると周りの人達に迷惑かかっちゃうし、ねぇ。
なんて思いつつ城内について一通り説明を受けた辺りで、ライアン王子が中庭にやって来た。立ち上がって手を振る私を見て一瞬固まってたけど、すぐ苦笑しつつも王子らしく優雅な挨拶を返してきた。
「ごきげんよう。急に呼び出してしまって申し訳なかったね、二人とも。お茶とお菓子は口にあったかな?」
「えぇ、悪くなくてよ」
「すっごく美味しく頂いてます、ありがとうございます!ところで、殿下はお一人ですか?」
当のルイス様はどしたの、と首を傾げたら、何でもルイス様は仕事が押しててまだ来られないそうだ。忙しいんだなー。
「…………おい、何で4人分用意した」
「その方が“ルイス”と“シャーロット”が別人だと強く印象付けられるだろう?」
「……?どうかしましたかー?」
「「いいや(いいえ)、何も」」
何やらヒソヒソ話してたライアン王子とシャーロット様が、私がそっち見た途端サッと離れた。怪しい…………。
「シャーロット・ハワード様。お時間でございます。王妃陛下がお待ちですのでご案内致します」
「ありがとう、エミル。では殿下、御前失礼致します」
「あぁ、行ってらっしゃい。母上によろしく伝えてくれ」
「えっ、えっ!?シャーロット様どこか行っちゃうんですか!?」
「ごめんなさい、実は元々、今日はこの件の話の為もあって貴女を呼びましたの。ですが予想より早く呼ばれてしまいましたので、一旦席を外します。説明は殿下とルイスにお願いしてありますから、それで納得して頂けるかしら」
案内の侍女を待たせてそう言ったシャーロット様が珍しく、ほんっっっとうに珍しく眉をハの字にして困り顔になってたから、これはかなり大事な要件なんだろうと素直に頷いた。
安堵したように席を外したシャーロット様を見送って、結果ライアン王子とふたりきりになってしまう。
……うん!話題が無いな!!話すことがないからお菓子食べよーっと。
せっかくの王家御用達のお菓子ちゃん達だ、楽しまねば!
「…………この私が目の前に居るのに脇目も振らずにお菓子に夢中かい?君は本当に変わってるね」
「んぐっ……!いくら絶世の美男子だからってただの級友に対してそんな自信満々な話振れる王子も中々ですよ」
「はは、言ってくれるね。やっぱり君は面白い」
スミレ色の瞳を細めて愉快そうに笑うライアン王子は、白銀の長髪も相まってどこか近寄りがたい雰囲気の美形だ。メインヒーローはライアン王子だけど、金髪翠眼のルイス様の方が王道王子系の顔してるよね。なんて思ったり。
「そう言えば、王子……」
「ライアンで構わないよ」
「じゃあ、ライアン様ってルイス様と面識あるんですか?話聞いてると何だか親しげですけど」
現に今日もこうして顔合わせの席なんか用意してくれちゃってるしね。
「あぁ、そうだね。彼とはもう長い付き合いになる。気心が知れた、一番本音を見せられる相手だ」
「心友って奴ですね!」
「どことなく漢字が違うような気がするけれど、まぁそう言う事になるね」
「誰が親友だ、悪友の間違いだろう?白々しい」
「ルイス様!!」
と、いつの間にやら現れたルイス様がライアン様を小突いてからため息混じりに席についた。
「やぁ、久しいねミーシャ嬢。あれから変わりはない?」
「はい、お陰様で平和なもんです。その節は色々とありがとうございました」
背筋を正して頭を下げると、ルイス様は切れ長の目を細めて柔らかく微笑んだ。その優しい笑みがいつも褒めてくれるときのシャーロット様そっくりで、一瞬ドキッとしてしまう。
「大したことはしていないが、感謝は素直に受け取らせて貰うよ。それはさて置き本題に入ろうか」
そう足を組んだルイス様に見つめられ、思わず背筋が伸びる。
「ミーシャ嬢、君には僕とシャーロットの共犯者になって貰いたい」
「……………………………はい?」
え、今なんつった?共・犯・者…………って。
「きょうはんしゃぁぁぁぁぁっ!!?んがっ!」
「この程度の事で声を上げるだなんて、まだまだ淑女教育は必要なようだね」
「みたいだね。エミル!辺りに今の彼女の声を耳にした部外者が居ないか確認を……」
「こんな事もあろうかとお庭自体に防音魔術が完璧にかかっております、安心してお話をお続け下さい」
叫んだ口を塞ぐように突っ込まれたスコーンがさっくりふわふわで美味しいやら、でも一口で食べる大きさじゃないやら。
とにかく、ライアン様が指示を出し終えるより早くそう答えた侍女が顔色一つ変えず頭を下げる。あのメイド……出来るな。
「私には何が何やらさっぱりなんですけど!説明くらいちゃんとしてください!」
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