第18話 とある困った王子の愉しみ
夏休みも終盤。王都に戻ってきたシャーロット……改め、ルイスからリゾート期間に起きた珍騒動の一部始終を報告されたライアンは、爆笑のあまり大理石の机に思い切り突っ伏した。
「あーっはははははっ!!そ、それで?ルイスの存在自体はミーシャ嬢に知られたものの、君とシャーロットが同一人物だとは全く勘付いてもくれなくて?挙句の果てには恋愛対象外だと言われてしまったと。ご、御愁傷様……!!」
バンバンと机を叩き息も絶え絶えになっているライアン。そんな親友をルイスは仏頂面に睨みつけた。
「〜〜〜っ!元を正せば君が僕とあの子を同室に押し込んだせいだろう!」
「あぁ、そろそろ刺激がほしい頃かと思ってね!しかしまさか、鉢合わせまでしておきながら微塵もシャーロットの正体に気が付かないとは……」
そこで言葉を切り再び肩を震わせたライアンに対し、気持ちを切り替えたルイスは前に髪をかき上げながら気障に笑みを浮かべる。
「まぁ、そこはそれだけ僕の“
「はいはい、ソウデスネ。で?報告は以上かい?」
「あぁ、臣下の立場としてはね」
わざと棒読みにした返事に突っかかりもせず少し歯切れが悪くなったルイスに、ライアンはピンときた表情を浮かべた。
「おや、何か他に相談かな?ならお茶にしようか、エミル」
「既にご用意出来ております」
ライアンに名を呼ばれた侍女が慣れた手付きでテーブルにティーセットを並べ、再び壁際に下がって気配を消す。昔からライアン専属だった優秀な侍女だ。この二人の素への適切な対処を実に心得ている。
「それで?なにか悩み事?」
「…………方を教えてくれ」
「え、なんて?」
「〜〜だから!女性の心を惹くにはにはまず何をしたら良いのかと聞いているんだ!!」
肝心な部分が聞き取れなかったライアンが問い返すなり、ルイスは机を叩き立ち上がりながら恥を偲んで訴えてきた。耳が若干赤くなっているらしくないルイスの姿に、ライアンは放心して口に含んでいた紅茶と共にこみ上げてきた笑いを呑み込む。
本来、ルイスは地位、能力、容姿、人柄共に十二分な男だ。黙って壁際にでも立っていようものならば女性達が寄って集って来そうな逸材なのだから、自分から口説く間でもなく女には不自由しない人生だった筈なのだ。彼が普通に男として生きてきたのでさえあれば。
「あぁ、そうかぁ。そうだよね、いや、確かにこの件は私が悪いな……。わかった。他なら無い親友の初恋だ、協力は惜しまないよ」
幼いルイスに男を棄てさせた自覚のあるライアンは流石に罪悪感を覚え、紅茶を飲み干してから力強く友の手を握った。……が、それに対して当のルイスはどこか要領を得ない顔つきになっている。
「言っておくが、僕は別にミーシャ嬢に懸想している訳じゃないから」
「ーー……はい?」
ちょっと待て。ではまず何故彼女を口説くと言う話になったんだ。
そう聞けば、単にあれだけ懐いてきている彼女に面と向かって“恋愛対象外”と断言されたルイスはいたくプライドが傷ついたらしく、要は自身の名誉回復の為の結論なのだそうだ。
その話を聞いたライアンは、色気さえ滲ませる自慢の顔を思わず盛大に歪めてしまった。
「ではルイスは、ミーシャ嬢を男として好いては……」
「あぁ、全くない。人間としては愉快だし、友人として生涯付き合っていくには値すると思える程度には気に入っているけどね」
(だからそれは恋愛感情とどこが違うと言うのか…………!)
今の言葉が執着でなくてなんと言う。異性での一生ものの友情などこの貴族社会ではまず有り得ない。そんな事、ルイスが理解していない訳もなかろうに。
(色々なしがらみが邪魔で無意識に本心から目を背けているのか……?)
今すぐそう聞きたいが、頑固者の彼のことだ。他人から指摘をされた所で余計に意固地になって、頑なに自身の気持ちに
つまり、今ライアンが出来る事はただ一つ。彼等を全力で応援し、ついでにその経過を楽しむことだ。
「君の考えはわかったよ、ルイス。だが君はハワード公爵と『学園卒業までは誰にも自分の正体を明かさず、また“ルイス”の存在を他の人間には知らせない』と約束してしまっているよね?」
「だから困っているんだ。学園に居る間はどうしたってシャーロットで居るしかないからね。この立ち位置は便利だが厄介だな……」
「心配は要らない。要はその足枷を逆に好機に変えればいい」
「そんな事が可能なのかい?」
「あぁ。いつの世も、“二人だけの秘密”と言うものは互いの距離を縮めてくれるものさ」
背徳感や自分しか知らない相手がいる優越感は、時に恋を加速させる……と、本には書いてあった。ライアン自身まだ体験はしたことが無いが。
そうしてそんなライアンに策を耳打ちされたルイスは、一考の価値はあると笑った。
「まさかこんなに親身に考えてくれるとは思っていなかったよ。てっきりライアンは面白半分に掻き回してきているだけだと思ってた」
そう笑うルイスに、ライアンは不服気な表情で胸に手を当てる。
「そんな風に思われていたとは心外だ。“面白半分”だなんてとんでもない。他なら無い君の初の恋愛騒動だ。誠心誠意、全力で面白がらせて貰うことを誓うよ!!」
「誓うな馬鹿!!!」
鋭く返ってきたツッコミにライアンは笑い、ルイスは相手を間違えたと項垂れる。
この騒ぎでも空気に徹していたライアンの侍女・エミルは、一切当人の預かり知らない所で困った王太子の“
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