第9話 王子様はどっち?
「あぁ、美しき姫様よ。貴方は俺を愛してくれると言うのか」
「もちろんです。初めてお会いした夜会で、仮面越しにも貴方のその瞳の美しさはわかりました。あの夜以来、わたくしの心には貴方のお姿が焼き付いて離れないのです」
「ありがとう愛しい人。だが、貴方が愛してくれた俺は真……、真……?」
「『真の俺じゃない』です。いい加減台詞くらいキチンと暗記なさいな!あと背筋を伸ばす!」
「あいたぁっ!」
皆さんお久しぶりです、ミーシャです。今日は演劇大会に向けてシャーロット様と一緒に我が家にて演技の特訓中!……ですが、また台詞をド忘れしてシャーロット様に扇子で背中を叩かれてしまいました。トホホ……。だって、男の子の口調って意外と難しいんだもの!
「あはは、スパルタだねぇシャーロット。でも朝からもう三時間は休みなしで練習しているよ?一旦お茶にしないかい。季節の果物のタルトを持ってきたんだ」
「やった!!タルト食べたいです!!」
「ちょっとライアン!甘やかさないで下さいな、もう本番まであまり時間もないのですから!!」
「まあまあ、良いじゃないか少しくらい。あまりぶっ通しでは集中力も持たないだろう?」
「そうですよ!それに甘いものは脳の栄養になって集中力を上げてくれるって言いますし!だからシャーロット様も一緒に食べましょ?ねっ?」
男装の為にサラシでぺったんこにした胸の前で両手を組んで目をうるうるさせてシャーロット様を見上げる。転生ヒロイン渾身のおねだりポーズをくらえ!(※ただし今は男装中である)
「くっ……!殿方の格好のまま可愛らしい仕草をするものではありません!仕方ありませんわね、食べたらすぐまた始めますわよ!」
「はい!!!」
おねだりビームの効果か、ため息混じりにシャーロット様も席につく。やったね、大勝利!
「わーいっ、いただきまーっす!」
「大口をあけて食べるんじゃありませんみっともない!どうして何度注意しても治りもしないのか……あぁ、そうだ、ではこうしましょうか」
「え?」
「明日の練習までに貴方が台詞を完璧に覚えて来なかった場合、私は演劇の姫君役を辞退させて頂きます」
「んぐっ!?そっ、そんなぁぁぁぁぁぁっ!!!」
シャーロット様の無情な裁きに叫んだ私の頭に、静かになさいと扇子の鉄槌が落ちた。
で、翌朝。
「しゃ、シャーロットさまぁ、王子はもちろん姫から脇役の台詞まで徹夜でバッチリ覚えて来まし…………ぐぅ」
「ちょっ!?誰も寝不足で倒れ込むまでして全て覚えてこいとは言ってないでしょう!!そもそも覚えるのは自分の役の台詞だけで良かっ……っ、とにかくこんな往来で人に抱きついて居眠りするものじゃありません!とにかくこのままじゃ目立つしどこかに運ばないと……、誰か、誰かーっ!!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「わぁ、ミーシャさん、とっても素敵よ!」
「本当!?」
「えぇ、少々小柄だけれど、端から見れば完璧に中性的な美少年王子だもの。午後の本番が楽しみね!」
「ありがとう!剣とかまでならって頑張ったかいがあったなぁ。頑張るから見ててね!じゃあ、朝のリハーサル行ってきまーす」
「「えぇ、行ってらっしゃい」」
シャーロット様の脅し……もとい、励ましをバネに、あの日からライアン王子を見本にしてしっかり練習を頑張った結果。私は見事男装の麗人になれたようだ。やったね!
クラスで仲良くしている友達2人に衣装姿を誉められて、上機嫌のまま演劇ホールに向かう。今日は舞台の本番だから、朝一番にリハーサルをやるのだ。
既にすっかり準備の整ったホールに入ると、スポットライトが当たる舞台の真ん中で、純白のドレス姿の女神様が振り返る。
「ようやく来ましたか、本番直前の最後のリハーサルですよ。少々気合いが足りないのでは無くて……「わぁぁ!シャーロット様素敵ですね!どこの女神様かと思っちゃいました!!!」抱きつくんじゃありません衣装が乱れるでしょう!」
舞台に飛び乗って衣装姿のシャーロット様に飛びつけば、いつものように突き放されてツンとそっぽを向かれてしまう。いつもならここで謝っておしまいだけど、ライアン様を見本に理想の王子様力を身につけた私は一味違うんだから!
私はニヤニヤしそうな唇をきゅっと引き締めて余裕のある笑みを作り、シャーロット様の触れれば壊れてしまいそうな金色の髪を指先ですくった。
「すまない、私の姫君。貴女のあまりの輝きに我を見失ってしまったようだ、許して貰えるかな?」
「ーっ!?」
囁くような甘く低めな声で(って言ってもまぁ女の子なので限界はあるんだけども)でシャーロット様にそう言えば、周りで作業をしていた他のご令嬢達からきゃーっと歓声が上がる。どうだ、私のヒーロー力を見て下さいシャーロット様!!
……なーんて、思ってたら、いきなり頭の後ろに手を回されてぐっとシャーロット様に引き寄せられた。えっ、ちょっ、顔が近い近い近い!!!
「えっ、ちょっ、あの、シャーロット様!!?」
「あらあら、顔を真っ赤にして可愛らしいこと。……残念ですが、わたくしはこの程度でなびくような可愛げある性格ではございませんの。出直してらっしゃいな、“王子様”」
そう言うが早いか、勝ち気に笑ったシャーロット様は私の頭をポンと叩いて去っていってしまった。
一人になった舞台の真ん中で、しゅーっと頭から湯気が出るような感覚に耐え兼ねてペタンと座り込む。
「王子様役の練習をしたわけでもないのに、どうしてそんな男前なんですかシャーロット様……!」
両手で顔を覆って唸る私の後ろで、ライアン様によるリハーサル開始の合図が響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます