第7話 ヒロインだってたまにはカッコよくなってみたい
「シャーロット様っ、おっはよーございまー……わぷっ!!」
「だから!毎朝毎朝あいさつの度に人に背中から抱きつくのはお止めなさいと言っているでしょう!」
抱きつこうとした私の額を右手でググググっと押さえながらため息をつくシャーロット様。あぁ、今日も切れ長で涼しげな視線が素敵だわ!
「えへへ、だってシャーロット様に会うと嬉しくてついくっつきたくなっちゃうんですもん!」
「言い訳をするんじゃありません!毎度毎度無駄に豊満な……その、胸を他人に押し付けて貴方には恥じらいと言うものがないのですか!!?」
「あはは、シャーロット様ったらほっぺた赤くしちゃってもしかして照れてます?女の子同士なんだしいいじゃないですか~」
「それは……っ、はぁ……もういいです。早く行きましょう。本日は来月行われる学生演劇会の演目決めの為の学年朝礼がありますから」
「はいっ、どこまででもご一緒します!」
「だからくっつくんじゃありませんと申して居るでしょう!」
「あいたっ!だから背中じゃなくて腕にしたのにぃ!!」
プイッと拗ねるように顔を背けた姿も様になるシャーロット様の腕に飛び付いたら扇子でピシッと手を叩かれた。『結局当てられてたら意味が無いんだよ……!』って、胸の話??
(別に女の子同士なんだし当たったって減るもんじゃ無いんだからそんなに怒らなくても……ハッ!)
もしや、シャーロット様は私のちょっとくっつくだけでもマシュマロのように柔らかいたわわなメロンが羨ましくて、自慢されてると感じてるのでは……?
(そう、そうだわ……!私としたことが、何てお可哀想なことを!)
豪奢で一度見かけたら忘れられない中性的な美貌のお陰で忘れがちだけど、シャーロット様は“ド”がつく貧乳!なんせ、何で勝負してもシャーロット様に敵わなかった私が彼女のお友だちになれたのは胸のサイズ比べで圧勝したからだもんね!
しかし気づいてなかったとは言え、仲良しさんになってから早3ヶ月、毎日毎日シャーロット様に無自覚にメロン自慢をしてしまっていたなんて私としたことが!これは即刻お詫びの品を送らないといけないよね!
(待っていてくださいシャーロット様、今夜にでも私が最高の贈り物をしますからね!)
隣を歩くシャーロット様のストーンとしたスレンダーなお身体を見つめながら、私はひそかにそう決意したのだった。
「……?何だか今悪寒がしたような……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
さて、所変わってここは学園の大聖堂。普段はあまり使ってないけど、学年集会的な人数がたくさん集まる行事の時にはここが集合場所になっている。現代日本の学校で言う体育館的ポジションね!
「さて、本日の議題は来月末に行われる学園演劇大会における我々一年生の劇の配役決めです。主な役柄は……」
壇上に立っているライアン王子が巨大なパネルに書かれた役柄を皆に見せて説明している。
今回の演目のタイトルは、『偽りの王子と真実の姫』。流行り病で亡くなった王子と見た目が瓜二つだからと言う理由だけで幼い頃に拐われて身代わりとして王宮で王子として生きることになって心を閉ざしてしまった青年が、何事にもてらいなく真摯に向き合う気高く優しい隣国の姫と偶然仮面舞踏会で知り合い互いの正体を知らないまま惹かれあっていく……みたいなお話だったはず。
この演劇大会、ゲームの中でもイベントとして出てきたなぁ。乙女ゲームのお約束通り、もちろんヒロインがお姫様に、そして意中の攻略キャラが王子様役に選ばれて。
ま、男の子達より
「王子様役はやはりライアン様を差し置いて他には居ないと思いますわ!」
「「えぇ、そのとおりですとも!!」」
王子様の役決めになった瞬間そう声をあげたのは、入学してすぐの頃私を『シャーロット様をダシにライアン様に近づく不届き者!』っていじめてきた三人組だ。めげないなぁと苦笑してると、ライアン様が彼女達の提案をやんわり断る。自分は王族として演劇の出来を評価する立場だから役者として出るわけにはいかないと。
(そうそう、ライアン攻略ルートにしても役決めではライアン様は王子役にはならないんだよね)
この場合はライアン王子は劇には出ないけどヒロインの姫役の練習の指導役になってくれて、ここで上手くやると一気に好感度が上がるのだ。で、“友好”以上になってると劇の当日に王子役の子が怪我をしちゃって、代理でライアン様が王子役として舞台に立つことになる。
つまり、ライアン様を舞台に立たせたければ私が姫役になってかつライアン様と仲良くなるしかないのだ。
(だがしかし!私はライアン様に全く好意はないし、恋してない相手を攻略する気もない!残念だったわね親衛隊の皆さん!!)
そんな訳で、理想の王子様が王子役をやってくれないとわかり、浮き足立っていたご令嬢達のテンションとやる気は急降下。“王子様”が決まらないことで姫役に立候補する人も居なくなっちゃって話し合いはグダグダだ。『相手もわからないのにラブシーンのある演劇の主役なんて御免よ』ってことだろうか。
まぁ確かに難しそうな役だしねー。気高いながらも親切で、ちょっと不器用で、優しいけど時に厳しく王子の間違いを正してくれる淑女の鑑のようなお姫様……なんて、演じきれる人はそうそう居な……く、ない!!
バッと隣の席を見る。ただ座ってる姿さえ気品を漂わせるシャーロット様が首をかしげると、サラサラのプラチナブロンドがさらりと揺れた。
「えー、王子、姫共に立候補者が出ないため、主演二人は有志による投票にて決め……」
「ちょーっと待ったぁ!」
「ーっ!ちょっと貴女!淑女足る者、立ち上がる際に椅子の音を立ててはなりません!」
「あ、すみません、やる気がつい溢れちゃって!」
えへへと笑う私を見据えてやれやれとシャーロット様が息をつく。壇上でも、ライアン様が苦笑を漏らした。
「ははは、元気が有り余っているのなら構わないさシャーロット。ミーシャ嬢、この場で立ち上がったと言うことはもしや立候補かい?」
ペンを姫役の欄に当てたライアン様の問いかけに他の生徒達が『あんな田舎娘が身の程知らずな』とか何とか言いながら一気にざわつくけど、なにも気にせず頷いて片手を高く上げた。
「はい!私、ミーシャは来月の学園演劇の“王子様役”に立候補します!!だからシャーロット様!私のお姫様になってくれませんか?」
その元気一杯のプロポーズまがいな台詞の三秒後。大聖堂にはシャーロットの戸惑いの声とライアンの大爆笑が響いたと言う。
~第7話 ヒロインだってたまにはカッコよくなってみたい~
『ヒロインがいつでもお姫様になりたいなんて思わないでよね!』
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