第6話 ヒロインは悪役令嬢に勝ちたい!〔後編〕
前略、連日シャーロット様に勝負と言う名の愛をぶつけまくった甲斐あって、放課後の下駄箱にシャーロット様からのラブレターが入っていました!……と、思いきや。
いざ来てみたら待ち合わせ場所は明らかにお茶会には向かない物置で、もちろんシャーロット様の姿もなく。とりあえず中に入ってみたら、外からまんまと扉を閉められ鍵までかけられてしまったのだった。
「ふふふふっ、良い気味ですわ。身の程も弁えず、シャーロット様を利用してライアン殿下に取り入ろうとするからいけないのよ」
扉に耳をぴったりくっつけて外の様子を伺えば、クスクスと意地悪く笑うご令嬢達の声やそんな台詞が聞こえてくる。声からして、いつもライアン様にしつこく付きまとってるあのファンの人達ね。
愕然と、びくともしない鉄扉に両手をついた。
「偽の手紙に騙されて、こんな人気のない場所に閉じ込められるだなんて……!」
「あらあら。今更後悔したって遅……」
「今のシチュエーション、転生してから今までで一番ヒロインっぽい!ビビアン様と取り巻きの人、ありがとう!!」
「って、何訳のわからない感謝をしてるんですの!?言っておきますけどこの倉庫は週に一度しか使われない廃倉庫ですし、わたくし達は今から貴女を閉じ込めたままライアン様を観劇にお誘いして出掛けますから貴女のことなんて誰もが助けに来てくれないんですからね!!!」
「あ、そこにちっちゃい天窓と脚立あったしもう既に自力で脱出してますんでお気遣いなくー。よいせっと」
「「「勝手に脱出してるんじゃないわよ!!!」」」
天窓からするりと抜け出して地面に着地した私を、ライアン様親衛隊(今私が命名した)の三人が取り囲んだ。
「もーっ、退いてくださいよ~。私早く帰って明日のシャーロット様との勝負の作戦考えたいんですからぁ」
「~っ!またそうやってシャーロット様をダシにしてライアン殿下に近づくつもりなのでしょう!そうはさせませんわよ!!!」
「???何でそう思うんですか?」
「何で……っライアン殿下と懇意になりたい以外の目的で、高飛車で身分と美貌を鼻にかけたあの嫌な女に近づく理由がないでしょう!?あるなら言ってご覧なさい!!!」
リーダーポジションの令嬢にそう言われて、思わずポカンとなった私にライアン様親衛隊が『そら見たことか』と笑う。
がさりと、背後の植え込みを誰かが掻き分ける音がした。
「シャーロット様の魅力、今から語って良いんですか?もれなく日が暮れますけど?」
「なっ……!?」
首を傾げながらそう言った私に、親衛隊三人がたじろぐ。
私は鞄から、徐にこの一週間勝負に負ける度につけてきた『シャーロット様のここがすごい!』ノートを取り出した。
「いいですか?まず……」
「ひぃぃぃぃっ!なんですのその厚み!言うなら簡潔になさい!!」
えーっ、まだあと三冊あるのに~。わがままだなぁ。じゃあ仕方ない、一言だけ。
「ふふん、聞いて驚きなさい。シャーロット様は……」
「シャーロット様は?」
「シャーロット様は、すっごく男前なんです!!!」
そう高らかに言った瞬間、うららかな春の午後の空気が凍りついた。
「ちょっと貴女、いくらなんでも女性相手にそれは失礼じゃございませんこと……?」
「なんでです?女性が男前じゃいけませんか?」
まっすぐ見返して問えば、彼女たちは再び押し黙った。
「たくさん勝負してみてわかったわ。シャーロット様の中には、『理想の淑女とはこうあるべき』っていう自分の理想があって、それを鍛練で完璧に作り上げてるの!だからあの方はすごいの、美しいだけじゃないの、格好いいの!!!だから、私はあの人が好きなの!ライアン様は関係ない!!」
「う、嘘よ、出任せですわ!」
「出任せじゃない!大体、仲良くなりたい相手がいるなら周りから攻めたりせずにまっすぐその相手にそう言えば良いじゃない!幼馴染みを巻き込まれたんじゃ、シャーロット様もライアン様も迷惑よ!卑劣で卑怯なのは貴女たちの方だわ!!」
「~~っ!な、何よこの下級貴族の馬鹿娘が……生意気ですわ!!」
「きゃっ!!?痛っ……く、ない?」
顔を真っ赤にしてワナワナと唇を震わせる親衛隊リーダーに突き飛ばされた。勢いで後ろにひっくり返りそうになって身構えたけど、ボスンと温かい何かに受け止められる。
振り向くと、いつも以上に冷ややかな表情をしたシャーロット様がそこに居た。
思わずパァァァァァッと笑顔になっちゃう。……にしても、シャーロット様の胸板、固いな。
「貴女達、一体彼女に何を?」
「い、いえ、わたくし達はその、身の程も弁えずシャーロット様につきまとう彼女に注意を……」
「それをわたくしが貴女方に頼みまして?この、わたくしが、貴女方のような者の手を借りなければこんな小娘一人追い払えないと?馬鹿にされたものですわね」
扇子で口元を覆ったシャーロット様のため息に、親衛隊達が青ざめる。っていうか最早蒼白だ。
シャーロット様がパチンッと、徐に音をたてて扇子を閉じた。
「わたくしは、自らの意思で彼女の勝負を受けています。余計な事をしないで、目障りよ」
「「「もっ、申し訳ございませんでした……!」」」
元祖悪役令嬢の絶対零度の眼差しに乾杯した半端者達は、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「全く、貴女と言う人は……って、いきなり何を!!?」
「シャーロット様……胸、無いですね」
「ーっ!!?い、いや、それは……っ!」
ライアン様親衛隊を追い払い振り向いたシャーロット様。私はその胸板を両手でがっしり掴んでみた。うわっ、やっぱ固い!さっき抱き止めて貰ったときから、まさかとは思ってたけど……!
「……シャーロット様、確か、私がひとつでも貴女より勝てることがあればお友達になってくれるんですよね?」
「あ、あぁ、……それが?」
「じゃあ、貧乳のシャーロット様より私のが大きいので、胸の大きさ勝利で今から私達はお友達ですね!!!」
ヒロインスキルでたわわに実ったEカップの胸を張ったさん秒後、シャーロット様の扇子チョップが私の脳天に炸裂した。
~第6話 ヒロインは悪役令嬢に勝ちたい!〔後編〕~
『何はともあれ、まずはお友達になれました!!』
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