第4話 ヒロインは悪役令嬢に勝ちたい!〔前編〕
シャーロット様は悪役令嬢なので、残念ながらヒロインの私からは一番遠いクラスだ。なので私はここ数日、放課後になるとチャイムと同時に教室を飛び出してシャーロット様のクラスにダッシュしている。
「ちょっと貴女、邪魔よ!わたくしたちの進路を妨げないで下さる!?」
「はーいっ、ごめんなさーいっ!」
おっと、今日も見知らぬお嬢様に叱られた!シャーロット様はいつもライアン様と下校してるから、シャーロット様に会いに来ると必ず彼のファンのご令嬢達にこうやって阻まれちゃうんだよね。
まぁシャーロット様への突撃も何回かにもなれば人混みのすり抜け方も堂に入ってきてササッと抜けて輪の中心に居るシャーロット様に駆け寄れるくらいになってきたけど。
駆け寄った私の姿を見ると、毎回シャーロット様は深いため息をつく。
「貴方、性懲りもせずまた来ましたの?」
「はいっ!顔を覚えてもらえて嬉しいです!!今日はテーブルマナーの勉強がしたいので、今夜お暇だったら一緒にお食事してくれませんか!?」
前に立ちはだかった私の横を、サラッサラの金髪を靡かせたシャーロット様がクールに素通りする。あぁ、今日もお美しい……!!
「お断りしますわ、今日は忙しくて昼食をとったのも遅かったのでお腹が空いていませんから。テーブルマナーなら専門の講師の方から習いなさい」
「あぅっ!じっ、じゃあじゃあ、お茶にしましょう!紅茶の入れ方とか、ご令嬢ならではのおもてなしのマナーとか教えてください!!」
「そんなことを今学んでどうするのです?貴方、まだ茶会に招待出来るような親しい友人も居ないでしょう」
「そりゃもちろん、おもてなしの仕方を覚えたら真っ先にシャーロット様をお招きします!!」
「だからわたくしから習ったもてなし方でわたくしを歓迎しても何の意味もないでしょう!!」
「あいたっ!」
バッと振り向いたシャーロット様に叩かれた額を擦りながら、ほっぺたを膨らませる。
「だって、私が今一番仲良くなりたいのはシャーロット様なんですもん!お茶しましょーよーっ!」
「ふむ……、こうして連日会いにやって来て、一緒に居る僕には見向きもせずに君にばかり話しかけている姿から見るに彼女の熱意は本物のようだよ。一度くらい相手をしてあげたらどうかな?シャーロット。なんなら僕も付き合うから」
「ライアン様ナイス援護!!でもお茶には来てくれなくて良いです、私シャーロット様と二人きりがいいんで」
「君のその自分の心に素直な所嫌いじゃないよ……」
片手をあげて『ノーサンキューです!』のポーズをした私から顔を背けたライアン様が目頭を押さえながら言う中、肝心のシャーロット様は公爵家の馬車にさっさと乗り込もうとして居る。あぁっ、今日も行っちゃう!!今日こそはせめて10分は足止めしようと思ってたのにーっ!
「シャーロット様っ、お茶はーっ」
「しませんと言っているでしょう!そもそも貴族同士の付き合いと言うものには、必ず“双方に”その相手と関わる利点がなければ成り立たないのです。そしてわたくしには、貴女と関わることで得られる利点が何一つとしてありません!」
「私にはあるんです!シャーロット様の美しい所作や口調は側に居るだけで勉強になりますし、何より素敵なんですもん!!」
ぎゅーっとシャーロット様の腕にしがみつきながら叫ぶけど、女性とは思えない力ですぐにペイッと引き剥がされた。その細腕のどこにそんな力が!?なんてびっくりしてる私を、悪役令嬢らしくビシッと指差すシャーロット様。
「だ、か、ら!“お互いに”利点がなきゃいけないと言っているでしょう!どうしてもわたくしと懇意になりたいのなら、何かひとつでも貴女にわたくしより優れている点があると証明して見せなさい!ライアン様、行きますよ!!」
「はいはい。じゃあミーシャ嬢、ごきげんよう」
「はい、また明日です……!」
そう一息に言い切ると、シャーロット様はライアン様を引き連れて馬車で去っていった。
「いいのかい?折角慕ってくれている子を邪険にしてしまって」
向かい合った馬車のなか、ライアンはいたずらに笑みながらシャーロットの扮装を解いたルイスに言う。それを、ルイスはどこか気だるげな表情で嘲笑した。
「ふん、どうせ彼女も他の令嬢たちと同じく、『殿下と幼なじみで近しいシャーロット様』と御近づきになれば君とも仲良くなれると思っているだけだろう。もう暫くすれば“シャーロット”が嫌いになってすぐに諦めるさ」
「あれってつまり、何かひとつでもシャーロット様に勝てたらお友達になってくれるってことだよね!?やったぁーっ!!」
馬車の中ではそんな会話が繰り広げられているとも知る由もないミーシャは、小さくなっていく豪奢な馬車を見送りながらさっきのシャーロット様の言葉の意味をものすごく前向きに捉えて、その場で飛び上がって喜んでいたのだった。
~第4話 ヒロインは悪役令嬢に勝ちたい!〔前編〕~
『理由はひとつ、愛ゆえに!私は彼女を倒します!!』
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