第3話 ヒロインと悪役令嬢は噛み合わない
その美しくも凛々しくて力強い立ち姿に、感動で胸が震える。
あ、悪役令嬢キターッ!!!
ヒールをカツカツ鳴らしながら歩み寄ってくる彼女こそこのゲームの悪役、シャーロット・ハワード公爵令嬢!!!
品行方正、胸は無いけどそこを除けばスタイル抜群、成績は常にトップで音楽の才能に長けていて、下の者への面倒見もよく、ついでに運動神経抜群で乗馬も出来るし、実は剣が得意で強い!しかも王子の幼馴染み!
そんな誰からも一目置かれる彼女は悪役令嬢ながら、言動は貴族になりたてのヒロインの攻略対象達へのマナー違反についての注意とか至って正論で、食堂でテーブルマナーに悩んでいれば嫌味のフリをしながら向かいに座って手順を付きっきりで指導してくれたり、モブ達があまりに行き過ぎた嫌がらせをすれば仲裁に入って助けてくれて『悔しければ、彼の隣に立つのが恥ずかしくない立派な淑女におなりなさい』とヒロインを激励し、ヒロインが見事彼のハートを射止めれば『素敵なレディーになったじゃない、完敗ですわ。幸せにおなりなさい』と言い残し身を引いて国外へと姿を消す完璧美女!私の最推し!!! ってか、悪役なんてとんでもない、彼女こそヒロインの幸せの青い鳥よ!
「経緯は存じませんけれど、貴女が今馴れ馴れしくしていたこの御方は我が国の第一王子、ライアン様です。事故で下敷きにしてしまったことは百歩譲って致し方なかったとしても、目上の方に迷惑をかけたならば最大限の敬意を持って謝罪と感謝をせねばなりません。そうでないと、不敬な態度として罰せられてしまうこともあるのですよ、よろしくて?」
私を正面から見下ろしたシャーロット様の言葉には、刺々しい声色とは逆に『身を守るためにもきちんと礼儀を学びなさい』と言う私へのアドバイス柄にじみ出てる。この意地悪とみせかけてヒロインに成長を促してくれる頼もしい感じと、ツンデレ感が堪らない!好き!!!
「まぁまぁシャーロット、彼女は確かフォーサイス伯爵家に引き取られたばかりでまだ社交に不馴れなのだろう。今回のことは大目に……」
「なりません!社交において、初めの印象こそ最も大切なのですよ!!自らを磨き、作法を学び完璧な立ち居振舞いをして、初めて令嬢としての武装が完了するのです。彼女はまだそのスタートラインにすら立っておりませんわ」
「だからと言ってそんなに厳しくしなくても良いだろう、怯えているじゃないか」
感動に打ち震えて俯いてる私を=“怯えている”と判断したのか、王子が然り気無く私とシャーロット様の間に入る。優しい良い人だ、ゲームやってたから実は腹黒ですこぶる性格悪いの知ってるけど。
そんな腹黒王子様を押し退け、ひとしきり感動に浸った私は顔をあげてシャーロット様の白くて指が長い綺麗な手を握りしめる。
王子様と悪役令嬢が揃ってぎょっとした顔になるのも気にしないでシャーロット様に詰め寄った。
「いいえ、シャーロット様のお言葉、ごもっともです!ご忠告ありがとうございます!!」
「え、えぇ、わかれば良いのよ。それにしても貴女、何故私の名前を……」
「実は私、凛々しくてお美しいシャーロット様の大ファンなんです!!お会いできて感激です!お友だちになってください!!」
「はぁ!?わ、わけがわらないわ、とにかく離して頂戴、私は貴女と深く関わるつもりはなくってよ!友人だなんて冗談じゃないわ、貴女のような品位の欠片もない町娘、お断りです!私につきまとう暇があるのなら、一日も早く一人前の令嬢におなりなさいな!」
彼女の手を握りしめてた手がパンッと振り払われる。でもめげない!
「わかりました!じゃあシャーロット様のお友だちにふさわしい素敵なレディーになるために、私に令嬢としてのいろはを教えてください!」
「えっ!?ちょっと貴女、それって本末転倒じゃ……っ」
そうよ、私丁度貴族のことなんかなんもわかんないんだし、憧れのシャーロット様に指導してもらえれば素敵な令嬢にも近づけて、シャーロット様と二人きりの時間もゲット出来て一石二鳥じゃない!?私ってば頭いいーっ!
「よし、そうと決まればお父様にもこの事を報告してきます!じゃあシャーロット様、明日からよろしくお願いしますねーっ!!」
善は急げと、二人にバイバイをしてダッシュでお父様の待つ馬車まで走る。明日からの学院生活、楽しみーっ!
イケメンとの恋は後回しでいいや!転生ヒロイン、ミーシャ・フォーサイス。まずは悪役令嬢の親友を目指します!
「頑張るぞーっ、おーっ!!!」
_______________
「な、何なんですのあの女……!」
「はははは、うり坊のように真っ直ぐに突き進んでいく元気なお嬢さんだったね。気まぐれで助けただけだったのに、まさかここまで面白い展開を見せてくれるとは……ふふっ」
公爵家の豪奢な馬車の中、悪役令嬢と向かい合ったメインヒーローが可笑しそうに笑いを噛み殺す。それを恨めしそうに睨み付けたシャーロットは、長いさらさらの金髪をシルクの布でひとつに結ぶとハンカチで乱雑に唇のグロスをぬぐった。
「はぁ……冗談じゃない。“僕”は今後、あの女には一切関わらないからな……!」
「ふふふふ、一筋縄ではいかないとは思うけど、せいぜい頑張りたまえ。シャーロット……いや、ルイス」
「ドレスを着ている時にその名前で呼ばないでくれ……!」
頭を抱えながら呟いたその声は、非常に低く明らかに女の声じゃない。
そう。唯一自分の
~第3話 ヒロインと悪役令嬢は噛み合わない~
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